「えーっと、札幌は絶対行くよな。あとはなんだっけ、花がたくさん見られるところ」
「北海道でそんな場所、たくさんあるだろー」
「まあそうなんだけど。先輩たち、確か夕張メロンの店があったって言ってたな。時期外れで食べられなかったて嘆いてた」
「メロン……それって、富良野にある『富田フォーム』のことかな?」
富良野の『富田ファーム』といえば、観光雑誌に必ず載っていると言っていいほど有名な観光地だ。季節ごとの花を見られるのが一番の醍醐味だが、園内にはラベンダーソフトクリームや、ラベンダーグッズが販売されている。ラベンダーの時期になると、毎年観光客がわんさか訪れる。
その『富田ファーム』では夕張メロンを販売している店が併設されている。そちらも大人気だ。私も、『富田ファーム』にはお父さんが生きていた頃、それからお母さんと二人になった後に何度も訪れたことがある。大好きな場所だ。
私が『富田ファーム』と口にすると、江川くんがピンときた様子でぐいっと身体をこちらに乗り出した。
「あ! そうだ、そこ! 『富田ファーム』。鳴海、よく分かったな。北海道行ったことあるのか?」
「うん、まあ、家族で何回か。『富田ファーム』も二回ほど」
「そうか〜。じゃあ、修学旅行そこまで楽しみじゃないんじゃね?」
「そんなことないよ! 家族で行くのと友達で行くのは、全然違うと思う」
「それは……いいこと言うなあっ」
江川くんが私の頭をガシガシと撫でる。安達くんも一緒になって、私を揶揄った。男同士の戯れ合いには慣れてきたが、やっぱり照れ臭い。彼らと身体を密着させているのも、むず痒かった。
「その富良野ってとこ行くから、近くの美瑛も行くんじゃね? 道内では基本バス移動って聞いたよ。てかそもそも、旭川空港に着くんだから、位置的に最初に美瑛か」
冷静になった安達くんがそう教えてくれた時、心臓がどくんと大きく跳ねた。
美瑛……桜晴が、美瑛に来る?
それに確かいま、彼はバスで移動すると言っていた。修学旅行だから大きな観光バスを使うのだろう。
それ自体は珍しいことじゃない。でも、私の中で一つの可能性が浮上して、突如けたたましいサイレンが鳴り出したみたいに、心臓がぎゅううっと縮み上がる。
二〇二五年四月。
東京から来た修学旅行生。
美瑛から富良野に向かっていた観光バス。
ギシギシと、胸に嫌な音がこだまする。頭まで誰かに押さえつけられるかのような痛みが生じて、両手でこめかみの辺りを抑えた。
「鳴海、大丈夫か?」
心配そうな江川くんの声が、先ほどよりも遠くに聞こえる。
だめだ、意識が……。
「鳴海!? やばい、保健室運ぼうっ」
「あ、ああ」
二人が一斉に立ち上がり、私の両腕を肩に回す。教室にいたクラスメイトたちが、ぎょっとした様子でこちらを見ていた。「大丈夫?」と声をかけてくれる人が何人もいたが、呻き声が出るだけで、まともな返答ができない。
保健室にたどり着いて、ベッドに寝かされた時には、気が抜けたように意識がふっと沈んでいた。
「北海道でそんな場所、たくさんあるだろー」
「まあそうなんだけど。先輩たち、確か夕張メロンの店があったって言ってたな。時期外れで食べられなかったて嘆いてた」
「メロン……それって、富良野にある『富田フォーム』のことかな?」
富良野の『富田ファーム』といえば、観光雑誌に必ず載っていると言っていいほど有名な観光地だ。季節ごとの花を見られるのが一番の醍醐味だが、園内にはラベンダーソフトクリームや、ラベンダーグッズが販売されている。ラベンダーの時期になると、毎年観光客がわんさか訪れる。
その『富田ファーム』では夕張メロンを販売している店が併設されている。そちらも大人気だ。私も、『富田ファーム』にはお父さんが生きていた頃、それからお母さんと二人になった後に何度も訪れたことがある。大好きな場所だ。
私が『富田ファーム』と口にすると、江川くんがピンときた様子でぐいっと身体をこちらに乗り出した。
「あ! そうだ、そこ! 『富田ファーム』。鳴海、よく分かったな。北海道行ったことあるのか?」
「うん、まあ、家族で何回か。『富田ファーム』も二回ほど」
「そうか〜。じゃあ、修学旅行そこまで楽しみじゃないんじゃね?」
「そんなことないよ! 家族で行くのと友達で行くのは、全然違うと思う」
「それは……いいこと言うなあっ」
江川くんが私の頭をガシガシと撫でる。安達くんも一緒になって、私を揶揄った。男同士の戯れ合いには慣れてきたが、やっぱり照れ臭い。彼らと身体を密着させているのも、むず痒かった。
「その富良野ってとこ行くから、近くの美瑛も行くんじゃね? 道内では基本バス移動って聞いたよ。てかそもそも、旭川空港に着くんだから、位置的に最初に美瑛か」
冷静になった安達くんがそう教えてくれた時、心臓がどくんと大きく跳ねた。
美瑛……桜晴が、美瑛に来る?
それに確かいま、彼はバスで移動すると言っていた。修学旅行だから大きな観光バスを使うのだろう。
それ自体は珍しいことじゃない。でも、私の中で一つの可能性が浮上して、突如けたたましいサイレンが鳴り出したみたいに、心臓がぎゅううっと縮み上がる。
二〇二五年四月。
東京から来た修学旅行生。
美瑛から富良野に向かっていた観光バス。
ギシギシと、胸に嫌な音がこだまする。頭まで誰かに押さえつけられるかのような痛みが生じて、両手でこめかみの辺りを抑えた。
「鳴海、大丈夫か?」
心配そうな江川くんの声が、先ほどよりも遠くに聞こえる。
だめだ、意識が……。
「鳴海!? やばい、保健室運ぼうっ」
「あ、ああ」
二人が一斉に立ち上がり、私の両腕を肩に回す。教室にいたクラスメイトたちが、ぎょっとした様子でこちらを見ていた。「大丈夫?」と声をかけてくれる人が何人もいたが、呻き声が出るだけで、まともな返答ができない。
保健室にたどり着いて、ベッドに寝かされた時には、気が抜けたように意識がふっと沈んでいた。