打ち上げが終わり、クラスが解散したのは午後九時だった。
私は瑛奈たちと別れ、自宅へと帰るバスに乗ろうとバス停に向かう。その時、後ろから「有坂さん」と声をかけられた。
「浅田くん?」
声をかけてきたのは、瑛奈の意中の彼である浅田圭介だ。私も彼とは中学から一緒で、思い出の希薄な一年一組のメンバーの中では、馴染みのある人物だった。
「どうしたの」
バス停でバスを待つ私を引き留めてまで、何を言いに来たのか。男子にしては割と長めの髪の毛をかき分けると、前髪の間からつぶらな瞳がのぞいていた。瑛奈は彼のことを、「綺麗な顔してるんだって」と毎度力説してくる。確かに、言われてみればくるりと丸い瞳は、毛並みの綺麗な猫を思わせた。
「有坂さん、あのさ。今日のダンス、すごく格好よかった。ほら、有坂さんって、運動得意じゃないって聞いてたから。今日はめちゃくちゃ頑張ってたじゃん。ギャップがあって、いいなって思ったんだ」
「え、うん、ありがとう」
身に覚えのないことを褒められて、ドギマギしてしまう私。
桜晴が頑張ってダンスを踊ってくれたんだ。あとでノートにお礼を書かなきゃ。
浅田くんは、なおも私のことをじっと見つめている。他に何か言いたいことがあるのだと、瞬時に理解した。
「それでさ……こんな日に言うのもずるいって思うかもしれないんだけど、いやこんな日だから言うんだけど、俺、有坂さんのことが好きなんだ」
「……え」
あまりにもびっくりして、素直な反応が口から漏れ出た。
浅田くんが、私を?
真っ先に脳裏に浮かんだのは、瑛奈の顔だ。瑛奈はずっと、浅田くんに恋をしていた。それなのに、どうして私のことを。確かに私も彼とは中学から一緒だけど、私たちはそれほど深く関係を築いているわけではない。
……でも。
私は、桜晴の顔を思い浮かべて、はっとする。
私だって桜晴と会ったことすらない。それなのに、私は他の男の子から告白されている時に、彼のことを思い出してしまう。
それくらい、私は桜晴のこと——。
「ごめん」
ガバッと頭を下げて、浅田くんに返事をした。自分が悪いことをしているような心地になる。だけど、勇気を出して気持ちを伝えてくれた彼には、正直に答えなくちゃいけないと思った。
「私、好きな人がいるの」
口にしてしまえば、なんだ、そうだったのかと自分でもすんなり受け入れることができた。
浅田くんは両目を大きく見開いて、一歩、二歩と後ずさる。運動会はカップルができやすいと聞くし、告白を断られると思っていなかったのかもしれない。
「……そう、だよな。急に話しかけてごめんな」
「ううん。嬉しかった。こちらこそ、気持ちに応えられなくてごめんなさい。浅田くんは、浅田くんのことを見てくれる人を、知るべき
だと思う」
「俺を見てくれる人?」
「そう。このクラスにいると思うよ」
「そっか……。それでも俺は、たぶん有坂さんのことが好きなんだけどな」
ごめん、余計なこと言ったわ。
また明日な。
くるりと踵を返してタタタタッと去っていく浅田くん。よく見れば、少し離れたところに彼と仲が良い男子が二人待っているようだった。浅田くんが私に告白するのを見守っていたんだろう。私は、去っていく親友の想い人の背中を見送って、やってきたバスに乗り込んだ。
私は瑛奈たちと別れ、自宅へと帰るバスに乗ろうとバス停に向かう。その時、後ろから「有坂さん」と声をかけられた。
「浅田くん?」
声をかけてきたのは、瑛奈の意中の彼である浅田圭介だ。私も彼とは中学から一緒で、思い出の希薄な一年一組のメンバーの中では、馴染みのある人物だった。
「どうしたの」
バス停でバスを待つ私を引き留めてまで、何を言いに来たのか。男子にしては割と長めの髪の毛をかき分けると、前髪の間からつぶらな瞳がのぞいていた。瑛奈は彼のことを、「綺麗な顔してるんだって」と毎度力説してくる。確かに、言われてみればくるりと丸い瞳は、毛並みの綺麗な猫を思わせた。
「有坂さん、あのさ。今日のダンス、すごく格好よかった。ほら、有坂さんって、運動得意じゃないって聞いてたから。今日はめちゃくちゃ頑張ってたじゃん。ギャップがあって、いいなって思ったんだ」
「え、うん、ありがとう」
身に覚えのないことを褒められて、ドギマギしてしまう私。
桜晴が頑張ってダンスを踊ってくれたんだ。あとでノートにお礼を書かなきゃ。
浅田くんは、なおも私のことをじっと見つめている。他に何か言いたいことがあるのだと、瞬時に理解した。
「それでさ……こんな日に言うのもずるいって思うかもしれないんだけど、いやこんな日だから言うんだけど、俺、有坂さんのことが好きなんだ」
「……え」
あまりにもびっくりして、素直な反応が口から漏れ出た。
浅田くんが、私を?
真っ先に脳裏に浮かんだのは、瑛奈の顔だ。瑛奈はずっと、浅田くんに恋をしていた。それなのに、どうして私のことを。確かに私も彼とは中学から一緒だけど、私たちはそれほど深く関係を築いているわけではない。
……でも。
私は、桜晴の顔を思い浮かべて、はっとする。
私だって桜晴と会ったことすらない。それなのに、私は他の男の子から告白されている時に、彼のことを思い出してしまう。
それくらい、私は桜晴のこと——。
「ごめん」
ガバッと頭を下げて、浅田くんに返事をした。自分が悪いことをしているような心地になる。だけど、勇気を出して気持ちを伝えてくれた彼には、正直に答えなくちゃいけないと思った。
「私、好きな人がいるの」
口にしてしまえば、なんだ、そうだったのかと自分でもすんなり受け入れることができた。
浅田くんは両目を大きく見開いて、一歩、二歩と後ずさる。運動会はカップルができやすいと聞くし、告白を断られると思っていなかったのかもしれない。
「……そう、だよな。急に話しかけてごめんな」
「ううん。嬉しかった。こちらこそ、気持ちに応えられなくてごめんなさい。浅田くんは、浅田くんのことを見てくれる人を、知るべき
だと思う」
「俺を見てくれる人?」
「そう。このクラスにいると思うよ」
「そっか……。それでも俺は、たぶん有坂さんのことが好きなんだけどな」
ごめん、余計なこと言ったわ。
また明日な。
くるりと踵を返してタタタタッと去っていく浅田くん。よく見れば、少し離れたところに彼と仲が良い男子が二人待っているようだった。浅田くんが私に告白するのを見守っていたんだろう。私は、去っていく親友の想い人の背中を見送って、やってきたバスに乗り込んだ。