『花火大会、めちゃくちゃ楽しかったー!』と、彼女のノートに書かれているのを目にした時には、嬉しくて心臓が二度ほど跳ね上がった。
良かった……僕は、美雨を笑顔にしてあげられたんだ。
なんて、違う違う。笑顔にしたのは僕じゃなくて、瑛奈と和湖だ。大好きな友達と一緒に見る花火は、さぞ美しかっただろう。
「あれ、まだ続きがある」
ページをめくると、まだノートは続いていた。僕はゆっくりと彼女の言葉を目で追いかける。
『こんなに楽しい花火大会だったのは、きっと桜晴のおかげです。
もちろん去年のお祭りも楽しかったんだけどさ、今年は桜晴に大切なひとときを譲ってもらったっていう現実があるでしょ? 私は、桜晴が私に、快く友達と花火を見せてくれようとしたその気持ちが、すごく嬉しかった。
だから去年よりも、楽しいって思えたんだと思う。
改めて、今日は本当にありがとう。
本音を言えばね、花火を見ながら、隣に桜晴がいてくれたらな——なんて、ちょっと恥ずかしいことも考えてた。そんなこと、できるわけないのにね。
あ、今のは忘れて? たぶん今日私、酔っ払ってる! ラムネ飲みすぎたかなあ? ラムネで酔っ払えるなんて、私、将来お酒飲まなくても楽しく生きていけるかも。
それじゃあ、また』
美雨が綴る心の内を覗き見て、僕は胸に温かな灯火が灯るようだった。
僕の人生の中で、誰かに心から感謝されたのは初めてなような気がする。
思えばずっと、他人に笑われたり、陰で悪く言われたりする人生だった。吃音を発症してからは自分に自信がなく、周囲と関わることさえ避けて。そんな僕が、誰かに邪魔者扱いされることはあっても、感謝されることなどないと思っていた。
「僕は……きみと会えたことが、たまらなく嬉しいんだ」
気がつけば口から本音が漏れ出ていてはっとする。
僕は、こんなにも美雨との入れ替わりの日々を楽しんでいる。彼女と入れ替われたことに、至上の喜びを感じている。それは、彼女が僕をまっすぐに受け入れ、僕のことを真剣に考えてくれているからだ。
たとえ面と向かって話すことができなくても、僕たちはこのノートで繋がっている。
それって、教室でただすれ違うだけのクラスメイトよりもずっと、心の絆は深くなっているということではないだろうか。
僕は机の上にさしていた一冊のノートを取り出し、ページを開いた。
「備忘録」。最近、書きかけていた小説だ。
ここしばらく筆が進んでおらず、プロローグしか書いていなかった。
二ページ目を捲り、ゆっくりと文字を綴り始める。今の僕が感じている素直な気持ちを。作り話を書くのに、自分の本音を綴るなんてどうかしている。でも、僕は今猛烈に書きたい気分だった。
小説家になる夢なんて、心の底では叶いっこないと諦めている。でも、ただ好きだから書くのだ。夢を叶えるのが難しくても、書き続けることだけは辞めたくなかった。
だって、彼女が認めてくれた夢だから。
僕はこの日、小説の続きを書き始めた。
良かった……僕は、美雨を笑顔にしてあげられたんだ。
なんて、違う違う。笑顔にしたのは僕じゃなくて、瑛奈と和湖だ。大好きな友達と一緒に見る花火は、さぞ美しかっただろう。
「あれ、まだ続きがある」
ページをめくると、まだノートは続いていた。僕はゆっくりと彼女の言葉を目で追いかける。
『こんなに楽しい花火大会だったのは、きっと桜晴のおかげです。
もちろん去年のお祭りも楽しかったんだけどさ、今年は桜晴に大切なひとときを譲ってもらったっていう現実があるでしょ? 私は、桜晴が私に、快く友達と花火を見せてくれようとしたその気持ちが、すごく嬉しかった。
だから去年よりも、楽しいって思えたんだと思う。
改めて、今日は本当にありがとう。
本音を言えばね、花火を見ながら、隣に桜晴がいてくれたらな——なんて、ちょっと恥ずかしいことも考えてた。そんなこと、できるわけないのにね。
あ、今のは忘れて? たぶん今日私、酔っ払ってる! ラムネ飲みすぎたかなあ? ラムネで酔っ払えるなんて、私、将来お酒飲まなくても楽しく生きていけるかも。
それじゃあ、また』
美雨が綴る心の内を覗き見て、僕は胸に温かな灯火が灯るようだった。
僕の人生の中で、誰かに心から感謝されたのは初めてなような気がする。
思えばずっと、他人に笑われたり、陰で悪く言われたりする人生だった。吃音を発症してからは自分に自信がなく、周囲と関わることさえ避けて。そんな僕が、誰かに邪魔者扱いされることはあっても、感謝されることなどないと思っていた。
「僕は……きみと会えたことが、たまらなく嬉しいんだ」
気がつけば口から本音が漏れ出ていてはっとする。
僕は、こんなにも美雨との入れ替わりの日々を楽しんでいる。彼女と入れ替われたことに、至上の喜びを感じている。それは、彼女が僕をまっすぐに受け入れ、僕のことを真剣に考えてくれているからだ。
たとえ面と向かって話すことができなくても、僕たちはこのノートで繋がっている。
それって、教室でただすれ違うだけのクラスメイトよりもずっと、心の絆は深くなっているということではないだろうか。
僕は机の上にさしていた一冊のノートを取り出し、ページを開いた。
「備忘録」。最近、書きかけていた小説だ。
ここしばらく筆が進んでおらず、プロローグしか書いていなかった。
二ページ目を捲り、ゆっくりと文字を綴り始める。今の僕が感じている素直な気持ちを。作り話を書くのに、自分の本音を綴るなんてどうかしている。でも、僕は今猛烈に書きたい気分だった。
小説家になる夢なんて、心の底では叶いっこないと諦めている。でも、ただ好きだから書くのだ。夢を叶えるのが難しくても、書き続けることだけは辞めたくなかった。
だって、彼女が認めてくれた夢だから。
僕はこの日、小説の続きを書き始めた。