桜晴の両親に、「今日からご飯は八時過ぎてから食べる」と伝えて、私は自分の身体へと帰っていった。

「……ふう」

 毎回、入れ替わりから戻ってくると、ほっとすると同時にいろいろと感情の整理がつかなくて心が忙しい。でも、嫌な感じはしない。それは、桜晴との入れ替わりを多少なりとも楽しめている証拠だ。
 お母さんが帰ってきて夕飯を一緒に食べた後、お風呂に浸かりながら今日の出来事を振り返る。髪の毛を乾かして部屋に戻り、ようやく一息つきながら、いつものように、彼とやりとりをしているノートを開いた。

『こんばんは、美雨。
 呼び方を変えて欲しいと言われたので、きみの言う通りにします。ちょっと照れ臭いけど……これでいいのかな? 馴れ馴れしくて不快だと感じたら教えてください。
 僕の提案に、いろいろと賛成してくれてありがとう。夕飯の件、確かにそうしよう。僕も夕飯くらいは家族と食べた方が良いと思ったよ。
 それから、ノート汚くてごめん。勉強が苦手で、なんとか板書をたくさんしないとって焦ったら、書き写すことに必死になって、体裁まで考えられていなかったんだ。今後は気をつけます。
 江川くんと仲良くなったって聞いてめちゃくちゃ驚いた。彼、びっくりしてただろ? お察しの通り、僕はまだクラスで人間関係を構築できてなくて、それで悩んでたこともあって……。きみがいとも簡単に江川くんと友達になったのは、素直に尊敬するし、嬉しいよ。ありがとう。
 今日は昨日より、うまく振る舞えたと思います。瑛奈さんと和湖さんは、二人とも中学校から一緒みたいだから、きみの過去の話を聞かないように、注意しました。まあ、過去の話を二人から聞いたことでペナルティが降るか、正直僕も分からないんだけどね。
 そういえば、二人とも僕が知らないドラマの話をしていて、ついていけなかったよ。
 普段からあんまりドラマを見る方じゃないけど、タイトルも聞いたことなくて焦った。『きみが描いた恋模様』っていう青春ドラマなんだけど、知ってる? もし知ってたら、いつ見られるのか教えてよ。
 今日話すことはそれくらいかな。平和な一日だった。僕も、きみと入れ替わっている間は人前でも堂々としていられるし、友達と過ごす時間が楽しいと思えてる。本当にありがとう。じゃあ、また明日』

 桜晴の書いたノートの文字は、あの小説と同じくらい綺麗で、私は思わず見入ってしまっていた。
 一つ、あれ? と思うことがあるとすれば、『きみが描いた恋模様』のドラマに関してだ。このドラマは毎週木曜日の九時から放送されている。私も、瑛奈たちの話に入りたくて最近見始めた。桜晴は青春小説を書いていたから、知っていてもおかしくないのだけれど……。
 まあ、普段からドラマを見ないなら仕方ないか。
 私はノートに、『木曜日の九時からだよ!』とコメントを入れた。
 それから新しいページに、彼と同じように今日の出来事を綴る。