久しぶりの入れ替わりは、有坂美雨という高校一年生の女の子とだった。
 鏡を見てびっくり。

「めちゃくちゃ、可愛い」

 黒髪のさらさらのストレートが胸のあたりまで伸びている。天使のツヤリングが眩しい。桜色の薄い唇に触れたい衝動に駆られたけれど、さすがに思いとどまった。
 不埒なことを考えてはいけない。
 下手なことをすれば、入れ替わりを終了させられてしまうかもしれないし。
 そう決意してからは、いつも通り淡々と過ごすことができた。幸い家族はまだ帰ってきていなかったので、部屋でのんびり過ごしていただけだが。

 有坂美雨という名前は、彼女が所持していた教科書の裏に書いてあった。真面目な性格らしく、ノートはきっちりとまとめられている。きっと彼女は学校の成績もいいんだろうな——と容易に想像がついた。
 容姿端麗で、成績も良さそうな彼女なのに、入れ替わりたいと願ったのはどうしてなんだろう? 純粋な疑問を持ったが、あまり深くは考えないようにした。理由は、これから分かるかもしれないし。

 それから僕は、彼女の机の上に立てられていた新品のノートを拝借して、挨拶と共に、入れ替わりのルールを書き綴った。
 始めて入れ替わりを経験する人なら、誰しもが混乱するに決まっている。
 一から四まで、自分が把握している範囲でルールをまとめると、改めてこの入れ替わりが特殊な体験であることを感じた。
 僕は最後に、彼女に対して、「入れ替わりを続けたくないなら、意思を尊重します」と綴った。こればっかりは、彼女の同意が必要になる。でも、僕は自分が彼女との入れ替わりを続けたいという気持ちを、正直に書いてしまった。
 今まで何度か入れ替わりをしてきたが、これまで知らずに過去の話をして、中途半端な状態で入れ替わりが終わってしまった。今回は、納得がいくまで入れ替わりを楽しみたかった。
 それに……なんとなく、だけど。
 彼女のことを、もう少し深く知りたいと思ってしまった。
 これは僕の完全なエゴだ。だから彼女に逃げる選択肢を与えた。
 僕と彼女は対等だから。どちらかが続けたくないなら、諦めざるを得ない。
 祈るような気持ちで、僕はその日ベッドに潜り込んだ。