一週間はあっという間に過ぎていく。毎日毎日、バンド一色の日々だった。
 助っ人とはいえ、ステージに立つなら半端なものは見せたくない。それに、冬哉のバンドを自分のせいで台無しにしたくはない。
 歌う予定の三曲を、完璧に歌いこなせるまでに仕上げていた。

「獅月、本当にお前スゲーな」
 ドラムの響平が感嘆の声を上げる。伊織がベースをスタンドに置きながら頷いた。

「ねー! 俺っちの獅月は凄いでしょ!」
「いつからお前のものになったんだよ。まぁ、でも声出すって気持ちいいよな」
「初めてのライブなのに、そんな余裕なの、本当いい度胸してるわ」
 一生懸命したつもりだが、冬夜にはまだ余裕があるように見えるのか。
 逆に俺は虚を突かれた気持ちになった。

「もう一回歌おうか?」
 思わず話を持ちかけたが、冬哉は満足そうに首を横に振る。
「今の獅月は完璧なんだ。完璧すぎる獅月がライブでどう爆発するか、俺っちはそれが楽しみで仕方ないんだよん」
 遊園地を楽しみにしている子どものように、ワクワクを隠さない。
 それほど緊張しないで済んでいるのは、メンバーが落ち着いているからだと思った。

「明日は、思いっきり楽しもうぜ」
 みんなの手が、輪になった中心で重なる。
「おうっ!!」
 手を真下に押し込んで気合いを入れた。

 冬哉のワクワクが移ってしまい、今夜寝られるか心配になってきた。
 何となく、まだ喋っていたい。

 結局この一週間のほとんどを、冬哉は獅月の家で過ごした。
 冬哉はその間も思いついたメロディーをスマホに録音したり、ノートに歌詞を書いたりして過ごす。
 俺はそんな冬哉を見ているのが好きだった。
 冬哉が今行っている作業の一つ一つが、最後にどんな音になるなだろうと考えただけで、期待に胸が膨らむ。

 いよいよ深夜になり大きな欠伸をすると、冬哉が座っていた獅月のデスクから振り返った。
「ごめん。夢中になってた。寝る?」
「冬哉のタイミングでいいよ。興奮して寝れないかもって思ってたけど、冬哉の鼻歌がいい子守唄になってた」
「そんな、照れるなぁ。じゃあ、今夜は冬哉君が寝かしつけて差し上げよう」
 ベッドに上がると、奥に追いやられる。
 もう布団など敷かない。冬哉はそれを喜んだ。

「なんで寝かしつけられる俺に、冬哉がしがみついてんだ?」
「そこは譲れないんだよ!! 黙って俺を抱きしめとけよ」
 獅月の腕にしがみついた手に力を込める。
 
 冬哉は獅月の腕を抱き枕にしたまま、思いついたばかりのメロディーを歌い始めた。
「新曲?」
「何となく歌ってるだけだよ」
「柔らかくていいな」
「本当に? じゃあ、もっと煮詰めるか」

 冬哉の歌声が夢の中へと誘う。

 明日はいよいよライブ当日だ。