夏休みも終わり、始まった二学期。最後の文化祭では新生エンフェクを披露した。
エリちゃんには夏休みのことを全て話し、それを号泣しながら聞いてくれた。
「もう〜〜!! 本当に心配したんだからね!! このまま二人が赤の他人になったらどうしようと思ってたんだからね!! メッセージくらい、くれても良かったじゃん!!」
嗚咽が出るほど泣きじゃくるエリちゃんに、必死で謝りながらも感謝の気持ちを伝えた。
獅月とギクシャクした時、エリちゃんは迷わず俺の味方をしてくれた。獅月本人にも喝を入れてくれたようだった。
あの時のエリちゃんのおかげで、しんどかった時期を乗り越えられたってのは少なからずある。
「本当に、ありがとう。エリちゃんがいてくれて、心強かった」
「私、何もしてないよ。冬哉、頑張って良かったじゃん。エンフェクにも加入してくれたし。結果オーライだよ」
エリちゃんは、ソラも良い子なんだねと話していた。俺もそれに頷き返す。最初こそ獅月に近付くために性別まで偽るなんて……と思っていたが、実際はソラだって俺と同じ。獅月が大好きだったってだけだ。
高校を卒業した後、地元を離れるエリちゃんを安心させられたのは、俺としても良かったと思っている。
文化祭も終わると三年生は本格的に受験モードに突入。
俺たちは動画の撮影もしつつ、塾にも通いつつ、僅かな時間に集まっては息抜きをしていた。
冬休みに入る頃には俺もしっかりと成績を上げ、みんなと一緒に大学に通えるのがほぼ確定していた。
気を抜きそうになるけど、そこはみんなが喝を入れてくれる。俺よりも俺のことを知っているメンバーに囲まれて、恵まれているなぁと思ったり、スパルタに嘆いたりする日々。
休憩時間には、復活ライブの話で持ち切りだ。
「そう言えば、black ASHのオーナーが卒業祝いにワンマンでやらせてくれるって」
「マジで??」
全員、一斉に獅月に喰らいつく。三人の顔が同時に押し寄せ、後退りしながらも獅月も嬉しそうだ。
「あぁ、費用も全部オーナーが出してくれるって。普段エンフェクには盛り上げてもらってるし、俺もバイトしてるから。卒業と復活、両方のお祝いだって言ってくれてた。チケット代、丸々入る」
「よっしゃーー!!」
昇降口を出て直ぐ、全員同時にガッツポーズを決める。
「俺っち、今度オーナーの言うこと何でも聞いてあげるわ」
「キスしてって言われたらすんの?」
「響平ちゃんは何でそういう発想になるのかなぁ。まぁ……ほっぺにくらいなら、してあげても良いけどぉ」
「したことないくせに」
「響平!!」
笑いながら逃げる響平を追いかけ回す。
冷たい風が頬を掠めても、それすらも心地いいと感じる。白い息が吐き出されては消えていく。笑い声が流れていく。四人で歩く帰り道。卒業が近付くにつれ、何気ない瞬間がとても大切なように思えてくる。
この先も一緒にいるとはいえ、同じ制服で過ごす時間はあと僅か。
「なぁ、復活ライブさ、制服でやらない?」
伊織の提案に、誰も異論はない。
「でも、学校がバレるから配信はできなくなるぞ」
「いいじゃん。地元の人だけが知ってるライブってのも」
「ま、冬哉がいいなら決まりだな」
「その前に受験な〜」
「ぐっ……やっぱり響平は余計な一言を言う……」
「よし、じゃあ明日は休みだし、俺ん家でスパルタ合宿な」
獅月が隣から肩を組む。
「じゃ、頑張れよ」
「また来週ね」
二人に別れを告げると、その足で獅月の家へと向かう。
「ライブ、新曲作るんだ?」
「うん、折角だしね。もう何となく形になってるのがあるし」
「あれは? 俺がサポートで入った時の『君に触れたい』もやる?」
獅月の質問に俺は首を振る。
「あれは、もうやらない。お蔵入り」
「何で? いい歌じゃん」
「あれさ、本当は獅月への気持ちを断つために作った歌なんだ。あの時、俺は何よりもバンドが一番だったし……まぁ、それは今でも変わらないけど。自分の恋愛で大切なものを失ってしまったら、絶対後悔するから。エンフェクを自分の理想通りに創り上げるためには、どうしても獅月が必要だった。だから、獅月にあの歌を歌ってもらうことで、自分の恋心を封印したんだ。でも、これからはあの歌を封印する。『君に触れたい』は、幻の楽曲になる」
獅月はしばし呆然としていたが、「そんな歌を俺に歌わせるなよ」と、俺の髪を掻き乱す。
「伊織が拗らせてるって言ってたの、すげー理解したわ」
「ごめんね。でもあれがあの時の精一杯だったんだ。その代わり、新曲はミラクルハッピーなのにするから」
「あんま可愛すぎるのもやめろよな?」
獅月とバンドの話をする。不思議な感覚。
でもこの先も、この気持ちを忘れたくない。
それから、俺たちは目の前に迫る受験に集中した。
二月。何はともあれ受験を乗り越えた俺たちは、ライブ当日まで毎日のように動画の生配信で盛り上がった。自由登校になったのもあり、練習にも熱が入る。
三月の卒業式では、校長先生の心意気で学校で卒業ライブを決行。
その後、晴れて全員、大学に合格した。
目まぐるしく過ぎる日々。
あっという間に、エンフェクの復活ライブ当日となった。
black ASHは超満員。獅月の正式な加入後、初めてのライブで熱気が半端ない。
「みんな、待っててくれてありがとう!!」
俺が第一声を上げると、会場は一気にヒートアップする。
「冬哉、大学受かったーー?」
オーディエンスから飛んで来る声に、皆んなが笑う。
「バーロ!! 受かるに決まってんだろ!! 冬哉様だぞ!!」
ドヤ顔でギターを唸らせると、「盛り上がっていくぞ!!」と獅月が客を煽った。
響平がスティックを打ちカウントを取ると、バスドラが力強く鳴り響く。シェイクビートに合わせて伊織と共にギターとベースが加わると、獅月がマイクを口元に構えた。
『冬の夜が明けていく
光が差し込むその空は 春の訪れを知らせてくれる
大きく架かる虹が二人を繋ぐ 輝く未来へと導くように
俺たちは歩み始める 輝けるその道を一歩ずつ
ねぇ、両手を広げて受け止めてよ
この気持ち全部あげるから
ねぇ、溢れる想いを届けるよ
だからずっと側にいて
君が好き
ねぇ、大好きだよ』
歌詞の雰囲気とは打って変わって、ロック調の強いメロディーラインにしたのは、獅月っぽさを出すため半分、照れ隠しが半分。だって、この歌は俺の愛が溢れすぎている。
獅月には、練習中はハミングで歌ってもらっていた。実際の歌は俺も当日聴きたかったからと言うのもあるが、毎日この歌を獅月の口から聞くのは流石に恥ずかしすぎた。
しかし獅月が歌うとどんなだろうと想像していたが、これは予想以上にやばい。
獅月の歌う姿を後ろから眺めながら感極まる。いい景色だ。夢にまで見た光景が目の前に広がっている。
間奏に入ると、獅月が隣に来て肩を抱く。
俺も寄りかかり、アーミングでビブラートをかける。二人の息が絡み合い、音が熱を帯びていく。
すると湧き上がる演奏の中、獅月が俺の耳元に顔を寄せ、俺以外には聞こえない声で囁いた。
「———好きだ」
エリちゃんには夏休みのことを全て話し、それを号泣しながら聞いてくれた。
「もう〜〜!! 本当に心配したんだからね!! このまま二人が赤の他人になったらどうしようと思ってたんだからね!! メッセージくらい、くれても良かったじゃん!!」
嗚咽が出るほど泣きじゃくるエリちゃんに、必死で謝りながらも感謝の気持ちを伝えた。
獅月とギクシャクした時、エリちゃんは迷わず俺の味方をしてくれた。獅月本人にも喝を入れてくれたようだった。
あの時のエリちゃんのおかげで、しんどかった時期を乗り越えられたってのは少なからずある。
「本当に、ありがとう。エリちゃんがいてくれて、心強かった」
「私、何もしてないよ。冬哉、頑張って良かったじゃん。エンフェクにも加入してくれたし。結果オーライだよ」
エリちゃんは、ソラも良い子なんだねと話していた。俺もそれに頷き返す。最初こそ獅月に近付くために性別まで偽るなんて……と思っていたが、実際はソラだって俺と同じ。獅月が大好きだったってだけだ。
高校を卒業した後、地元を離れるエリちゃんを安心させられたのは、俺としても良かったと思っている。
文化祭も終わると三年生は本格的に受験モードに突入。
俺たちは動画の撮影もしつつ、塾にも通いつつ、僅かな時間に集まっては息抜きをしていた。
冬休みに入る頃には俺もしっかりと成績を上げ、みんなと一緒に大学に通えるのがほぼ確定していた。
気を抜きそうになるけど、そこはみんなが喝を入れてくれる。俺よりも俺のことを知っているメンバーに囲まれて、恵まれているなぁと思ったり、スパルタに嘆いたりする日々。
休憩時間には、復活ライブの話で持ち切りだ。
「そう言えば、black ASHのオーナーが卒業祝いにワンマンでやらせてくれるって」
「マジで??」
全員、一斉に獅月に喰らいつく。三人の顔が同時に押し寄せ、後退りしながらも獅月も嬉しそうだ。
「あぁ、費用も全部オーナーが出してくれるって。普段エンフェクには盛り上げてもらってるし、俺もバイトしてるから。卒業と復活、両方のお祝いだって言ってくれてた。チケット代、丸々入る」
「よっしゃーー!!」
昇降口を出て直ぐ、全員同時にガッツポーズを決める。
「俺っち、今度オーナーの言うこと何でも聞いてあげるわ」
「キスしてって言われたらすんの?」
「響平ちゃんは何でそういう発想になるのかなぁ。まぁ……ほっぺにくらいなら、してあげても良いけどぉ」
「したことないくせに」
「響平!!」
笑いながら逃げる響平を追いかけ回す。
冷たい風が頬を掠めても、それすらも心地いいと感じる。白い息が吐き出されては消えていく。笑い声が流れていく。四人で歩く帰り道。卒業が近付くにつれ、何気ない瞬間がとても大切なように思えてくる。
この先も一緒にいるとはいえ、同じ制服で過ごす時間はあと僅か。
「なぁ、復活ライブさ、制服でやらない?」
伊織の提案に、誰も異論はない。
「でも、学校がバレるから配信はできなくなるぞ」
「いいじゃん。地元の人だけが知ってるライブってのも」
「ま、冬哉がいいなら決まりだな」
「その前に受験な〜」
「ぐっ……やっぱり響平は余計な一言を言う……」
「よし、じゃあ明日は休みだし、俺ん家でスパルタ合宿な」
獅月が隣から肩を組む。
「じゃ、頑張れよ」
「また来週ね」
二人に別れを告げると、その足で獅月の家へと向かう。
「ライブ、新曲作るんだ?」
「うん、折角だしね。もう何となく形になってるのがあるし」
「あれは? 俺がサポートで入った時の『君に触れたい』もやる?」
獅月の質問に俺は首を振る。
「あれは、もうやらない。お蔵入り」
「何で? いい歌じゃん」
「あれさ、本当は獅月への気持ちを断つために作った歌なんだ。あの時、俺は何よりもバンドが一番だったし……まぁ、それは今でも変わらないけど。自分の恋愛で大切なものを失ってしまったら、絶対後悔するから。エンフェクを自分の理想通りに創り上げるためには、どうしても獅月が必要だった。だから、獅月にあの歌を歌ってもらうことで、自分の恋心を封印したんだ。でも、これからはあの歌を封印する。『君に触れたい』は、幻の楽曲になる」
獅月はしばし呆然としていたが、「そんな歌を俺に歌わせるなよ」と、俺の髪を掻き乱す。
「伊織が拗らせてるって言ってたの、すげー理解したわ」
「ごめんね。でもあれがあの時の精一杯だったんだ。その代わり、新曲はミラクルハッピーなのにするから」
「あんま可愛すぎるのもやめろよな?」
獅月とバンドの話をする。不思議な感覚。
でもこの先も、この気持ちを忘れたくない。
それから、俺たちは目の前に迫る受験に集中した。
二月。何はともあれ受験を乗り越えた俺たちは、ライブ当日まで毎日のように動画の生配信で盛り上がった。自由登校になったのもあり、練習にも熱が入る。
三月の卒業式では、校長先生の心意気で学校で卒業ライブを決行。
その後、晴れて全員、大学に合格した。
目まぐるしく過ぎる日々。
あっという間に、エンフェクの復活ライブ当日となった。
black ASHは超満員。獅月の正式な加入後、初めてのライブで熱気が半端ない。
「みんな、待っててくれてありがとう!!」
俺が第一声を上げると、会場は一気にヒートアップする。
「冬哉、大学受かったーー?」
オーディエンスから飛んで来る声に、皆んなが笑う。
「バーロ!! 受かるに決まってんだろ!! 冬哉様だぞ!!」
ドヤ顔でギターを唸らせると、「盛り上がっていくぞ!!」と獅月が客を煽った。
響平がスティックを打ちカウントを取ると、バスドラが力強く鳴り響く。シェイクビートに合わせて伊織と共にギターとベースが加わると、獅月がマイクを口元に構えた。
『冬の夜が明けていく
光が差し込むその空は 春の訪れを知らせてくれる
大きく架かる虹が二人を繋ぐ 輝く未来へと導くように
俺たちは歩み始める 輝けるその道を一歩ずつ
ねぇ、両手を広げて受け止めてよ
この気持ち全部あげるから
ねぇ、溢れる想いを届けるよ
だからずっと側にいて
君が好き
ねぇ、大好きだよ』
歌詞の雰囲気とは打って変わって、ロック調の強いメロディーラインにしたのは、獅月っぽさを出すため半分、照れ隠しが半分。だって、この歌は俺の愛が溢れすぎている。
獅月には、練習中はハミングで歌ってもらっていた。実際の歌は俺も当日聴きたかったからと言うのもあるが、毎日この歌を獅月の口から聞くのは流石に恥ずかしすぎた。
しかし獅月が歌うとどんなだろうと想像していたが、これは予想以上にやばい。
獅月の歌う姿を後ろから眺めながら感極まる。いい景色だ。夢にまで見た光景が目の前に広がっている。
間奏に入ると、獅月が隣に来て肩を抱く。
俺も寄りかかり、アーミングでビブラートをかける。二人の息が絡み合い、音が熱を帯びていく。
すると湧き上がる演奏の中、獅月が俺の耳元に顔を寄せ、俺以外には聞こえない声で囁いた。
「———好きだ」