それからの俺たちは何をしてても楽しかった。何よりこれまでは俺から獅月に構ってほしくて近付いていたのに、今では獅月の方から触れてくれる。
そう、獅月はどうやら付き合うと甘々の溺愛タイプらしいのだ。
部屋にいても体のどこかしらが触れている。すぐに抱きついてくる。俺が泊まった時に腕枕してくる。やたら髪触ってくる。
勉強してても、隣に座って腕やら脚やらずっと引っ付いてる。
俺は、ドキドキが止まらない。
「獅月ってそんなに甘かった?」なんて思わず聞いてしまうのも無理はない。
残りの夏休み、ほぼ全日獅月の家で過ごしている俺を、獅月は背後からホールドして座る。
そんな体勢で顔を寄せられて勉強を見てもらっても、頭に何も入って来ない。
「なんか、自分を受け入れたらもっと冬哉を感じたいって思うようになったんだ。っていうか、毎日好きだって言ってくれるの期待したけど、意外と言ってくれねぇんだな」
「そんなの実際は恥ずかしくて頻繁に言えないよ。ってか耳元で喋んないで。獅月の声にゾクゾクしちゃうから」
「言ってほしいのにな」
ワザと耳元で囁く獅月から、体ごと捩らせて顔を離す。
「ちょっ!! 獅月!? 怒るよ!?」
「ははっ! 怒っても冬哉だな」
振り返ると、頬が触れる距離に獅月がいる。
顔が熱い。もう何日もこんな状態で過ごしていると言うのに、一向に慣れる気配のない俺。
獅月とちゃんと話し合った日以来、俺は一度も獅月に好きだと伝えていない。
「無理矢理にでも言わそうとしてるでしょ」
「だって聞きたいじゃん。あの時はお互い余裕がなかったけど、今ならちゃんと向き合える」
「そんな大安売りするような気持ちじゃないの!! ねぇ、ここ教えて? 今は勉強見てくれるんでしょ?」
「うん、そうだな。じゃあ集中して、ここからここまで、できる範囲で解いてみて」
「だーかーら! そんなに密着されたら気になり過ぎて無理なんだよぉ!!」
獅月は俺の余裕のない様子が面白いらしく、嫌がると余計に引っ付いてくる。
俺は獅月の新しい顔を見た気持ち浸っていて、新鮮な関係に酔いしれている。
それでも気恥ずかしいのは否めない。獅月の方は見ないように、意識して参考書と向き合いながら話を変える。
「獅月。響平と伊織にボーカルのこととか、ちゃんと報告したいんだけど」
「確かに、そろそろ報告しないと待ってくれてるよな。響平に連絡してみるわ」
獅月は片手を俺の腹に回したまま、もう片方の手でスマホを弄る。直ぐにでも二人と落ち合うべきなのは分かっていても、二人の時間を謳歌したいと思うのも仕方のないことだ。
結局、一週間も経ってからの報告となってしまった。でもいい報告だから、きっと二人は喜んでくれる。
響平は伊織といるようで、じゃあ晩御飯を一緒に食べながら……という運びとなった。
夕方になり約束のカフェへと向かうと、響平と伊織は先に着いてて、個室を確保してくれていた。
「じゃあ改めて、エンフェクのボーカルやります。よろしく」
「待ってたよ」
「頼むぜ、獅月」
二人とも満面の笑みで獅月を迎え入れる。
「とりあえずさ、受験終わるまでライブは出来ないから動画の回数は増やすか? ショート動画でもいいだろうし」
早速響平が提案し、伊織も頷く。
「だね。合間で曲も作らないと」
その言葉に反応したのは伊織だった。
「今の冬哉なら、ミラクルハッピーな曲になりそうだね」
「伊織、急に何言って……」
「だって、冬哉はすぐに顔に出るから分かりやすい。良かったね、冬哉」
伊織がケラケラと笑ってる。
その様子を見た獅月があることに気付いた。
「なぁ、もしかして冬哉が俺のこと好きなのって、響平も伊織も知ってた……?」
「まぁね。相当な拗らせっぷりだったんだから」
「なんだよ、知らないの俺だけだったってわけ?」
俺が獅月が好きだと、二人とも知っていたことに獅月は驚く。
自分がこんなに鈍感だとは思っていなかったと愕然とした。
「でもさ、これでやっと伊織も幸せになってって言えるよ」
「伊織?」
俺が伊織に視線を送ると、照れたように指で頬を掻く。獅月は何で俺の件が解決したら伊織が幸せになれるのか、不思議そうに尋ねた。
「伊織さ、よく対バンするバンドのメンバーと両思いなんだけど、俺っちがあまりにも片思い拗らせてるからって、ずっと返事を保留にしてたんだ」
「なるほど。でも、それなら響平はずっと彼女いるじゃん。何で伊織だけ?」
「俺のところはファンの人達の後押しが凄くて。まぁ、冬哉を気遣うつもりもなかったけど」
響平の言葉に獅月が笑う。
「あーぁ、伊織は優しいよなぁ!!」なんて俺も口では言いながら、自然体でいてくれる響平には感謝してる。
二人と別れた後は、獅月の家へと向かう。当たり前のように二人で帰るようになった頃、夏休みは終わってしまうのだ。入り浸れるのも後数日になってしまった。
いつものコンビニに寄る。
ソラはあれからもコンビニでのバイトを続けていて、獅月のファンに戻ると話合いでお互い納得したそうだ。獅月は『友達で』と言ったが、ソラが友達にはなれないと断った。友達になってしまうと、色々と欲を出してしまうだろうからと言ったそうだ。
ずっと獅月のファンでいたいから、ライブに行ったりするのを許して欲しいと頼んできたソラに、獅月は勿論OKした。
ソラに俺とのことは話さなかったと獅月は言う。だから、俺に気遣ってソラが決めたことではない。全てソラが自分で出した答えだから、獅月もそれを受け入れたし、俺にも気にするなと。
俺は「分かった」とだけ答えておいた。
ソラに勝ったとか気の毒なことをしたとか、そんな気持ちは全くなく、俺は今、獅月の隣にいられることを素直に喜んでいる。
そう、獅月はどうやら付き合うと甘々の溺愛タイプらしいのだ。
部屋にいても体のどこかしらが触れている。すぐに抱きついてくる。俺が泊まった時に腕枕してくる。やたら髪触ってくる。
勉強してても、隣に座って腕やら脚やらずっと引っ付いてる。
俺は、ドキドキが止まらない。
「獅月ってそんなに甘かった?」なんて思わず聞いてしまうのも無理はない。
残りの夏休み、ほぼ全日獅月の家で過ごしている俺を、獅月は背後からホールドして座る。
そんな体勢で顔を寄せられて勉強を見てもらっても、頭に何も入って来ない。
「なんか、自分を受け入れたらもっと冬哉を感じたいって思うようになったんだ。っていうか、毎日好きだって言ってくれるの期待したけど、意外と言ってくれねぇんだな」
「そんなの実際は恥ずかしくて頻繁に言えないよ。ってか耳元で喋んないで。獅月の声にゾクゾクしちゃうから」
「言ってほしいのにな」
ワザと耳元で囁く獅月から、体ごと捩らせて顔を離す。
「ちょっ!! 獅月!? 怒るよ!?」
「ははっ! 怒っても冬哉だな」
振り返ると、頬が触れる距離に獅月がいる。
顔が熱い。もう何日もこんな状態で過ごしていると言うのに、一向に慣れる気配のない俺。
獅月とちゃんと話し合った日以来、俺は一度も獅月に好きだと伝えていない。
「無理矢理にでも言わそうとしてるでしょ」
「だって聞きたいじゃん。あの時はお互い余裕がなかったけど、今ならちゃんと向き合える」
「そんな大安売りするような気持ちじゃないの!! ねぇ、ここ教えて? 今は勉強見てくれるんでしょ?」
「うん、そうだな。じゃあ集中して、ここからここまで、できる範囲で解いてみて」
「だーかーら! そんなに密着されたら気になり過ぎて無理なんだよぉ!!」
獅月は俺の余裕のない様子が面白いらしく、嫌がると余計に引っ付いてくる。
俺は獅月の新しい顔を見た気持ち浸っていて、新鮮な関係に酔いしれている。
それでも気恥ずかしいのは否めない。獅月の方は見ないように、意識して参考書と向き合いながら話を変える。
「獅月。響平と伊織にボーカルのこととか、ちゃんと報告したいんだけど」
「確かに、そろそろ報告しないと待ってくれてるよな。響平に連絡してみるわ」
獅月は片手を俺の腹に回したまま、もう片方の手でスマホを弄る。直ぐにでも二人と落ち合うべきなのは分かっていても、二人の時間を謳歌したいと思うのも仕方のないことだ。
結局、一週間も経ってからの報告となってしまった。でもいい報告だから、きっと二人は喜んでくれる。
響平は伊織といるようで、じゃあ晩御飯を一緒に食べながら……という運びとなった。
夕方になり約束のカフェへと向かうと、響平と伊織は先に着いてて、個室を確保してくれていた。
「じゃあ改めて、エンフェクのボーカルやります。よろしく」
「待ってたよ」
「頼むぜ、獅月」
二人とも満面の笑みで獅月を迎え入れる。
「とりあえずさ、受験終わるまでライブは出来ないから動画の回数は増やすか? ショート動画でもいいだろうし」
早速響平が提案し、伊織も頷く。
「だね。合間で曲も作らないと」
その言葉に反応したのは伊織だった。
「今の冬哉なら、ミラクルハッピーな曲になりそうだね」
「伊織、急に何言って……」
「だって、冬哉はすぐに顔に出るから分かりやすい。良かったね、冬哉」
伊織がケラケラと笑ってる。
その様子を見た獅月があることに気付いた。
「なぁ、もしかして冬哉が俺のこと好きなのって、響平も伊織も知ってた……?」
「まぁね。相当な拗らせっぷりだったんだから」
「なんだよ、知らないの俺だけだったってわけ?」
俺が獅月が好きだと、二人とも知っていたことに獅月は驚く。
自分がこんなに鈍感だとは思っていなかったと愕然とした。
「でもさ、これでやっと伊織も幸せになってって言えるよ」
「伊織?」
俺が伊織に視線を送ると、照れたように指で頬を掻く。獅月は何で俺の件が解決したら伊織が幸せになれるのか、不思議そうに尋ねた。
「伊織さ、よく対バンするバンドのメンバーと両思いなんだけど、俺っちがあまりにも片思い拗らせてるからって、ずっと返事を保留にしてたんだ」
「なるほど。でも、それなら響平はずっと彼女いるじゃん。何で伊織だけ?」
「俺のところはファンの人達の後押しが凄くて。まぁ、冬哉を気遣うつもりもなかったけど」
響平の言葉に獅月が笑う。
「あーぁ、伊織は優しいよなぁ!!」なんて俺も口では言いながら、自然体でいてくれる響平には感謝してる。
二人と別れた後は、獅月の家へと向かう。当たり前のように二人で帰るようになった頃、夏休みは終わってしまうのだ。入り浸れるのも後数日になってしまった。
いつものコンビニに寄る。
ソラはあれからもコンビニでのバイトを続けていて、獅月のファンに戻ると話合いでお互い納得したそうだ。獅月は『友達で』と言ったが、ソラが友達にはなれないと断った。友達になってしまうと、色々と欲を出してしまうだろうからと言ったそうだ。
ずっと獅月のファンでいたいから、ライブに行ったりするのを許して欲しいと頼んできたソラに、獅月は勿論OKした。
ソラに俺とのことは話さなかったと獅月は言う。だから、俺に気遣ってソラが決めたことではない。全てソラが自分で出した答えだから、獅月もそれを受け入れたし、俺にも気にするなと。
俺は「分かった」とだけ答えておいた。
ソラに勝ったとか気の毒なことをしたとか、そんな気持ちは全くなく、俺は今、獅月の隣にいられることを素直に喜んでいる。