昨日は久しぶりに獅月にしがみついて寝た。幸せだったが、また五分で寝入ってしまい、自分に嫌気がさす。
仕方なく、朝、寝たふりをしていたけれど、獅月には何もかもお見通しだった。
「腹、空かねぇ?」
「空く空く」
「やっぱ起きてんじゃん」
「獅月、ズルイよ。休みなんだし、もうちょっとゆっくりしようよ」
「ダメだ。育ち盛りで食べないとぶっ倒れる」
「それ以上成長しなくてよろしい!!」
「ははっ、確かに。冬哉も食うだろ?」
「食うけど」
「食うんじゃん」
……一緒に食べたいからに決まってんだろ。
とは言わなかった。
俺が喜びまくっているのは、きっと顔の全域から溢れ出ているだろうから。これ以上の言葉はウザいだけだ。
それに、獅月が作ってくれるブランチは最高だった。
パスタに、冷食の唐揚げ。インスタントのコーンポタージュ。
「美味しい!!」
「殆どインスタントじゃん」
獅月は笑っている。
「パスタは獅月だろ。簡単にペペロンチーノ作っちゃうんだもんなぁ。こんなのお店で食べたら、俺っちたまらず『シェフを呼んでくれ賜え』って言っちゃうよ」
「なんだそれ」
獅月は声を出して笑い始めた。眉を下げて笑う顔が好きだ。俺もつられて笑う。
「こんなにも美味しい料理が頂けて光栄だ。シェフにお礼が言いたくてね」
「本日は当店をご利用いただき、ありがとうございます。シェフの獅月と申します」
「君かね。とても楽しませてもらったよ。本当にありがとう」
「どういたしまして」
「っ!」
真正面から突然柔らかく微笑む獅月に、ドキッとした。テーブルに肘をつき、手を頬に添え愛おしい物を見るように目を細める。こんな笑い方、初めて見た気がする。
———不意打ち、ズルい。
顔に少し熱を感じる。
結局、今日も獅月の家に泊まることにした。
昨日から降り続いた雨は、結局夕方になってようやく止んだ。
「ねぇ、獅月。雨止んだしコンビニにお菓子を買いに行こう」
「いいね。行くか」
獅月はスマホをチェックしつつ、家を出た。
外に出た途端、雨上がりの空に大きな虹を発見する。
「虹!! 綺麗だ」
俺が見惚れていると、獅月はもう俺の頭の中でメロディーが流れていると悟ったようだ。
「新曲は虹だな」
「綺麗な曲にしたい。柔らかく揺れるような曲」
「いいね」
他愛ない会話が弾む。
雨で濡れた地面が、西陽に照らされてオレンジ色に輝いている。
俺は水溜まりをわざと踏んで水飛沫を上げながら歩く。その少し後ろから、獅月がいつもの苦笑いを浮かべていた。
こんな時間が続きますようにと願わずにはいられない。
コンビニ着いた時、獅月は辺りを見渡し誰かを探している様子だった。
アイスを選んでいる間にこっそり獅月を見ると、中年くらいの店員さんに声をかけている。
何か虫の知らせを感じるが、毎日通うほど常連の獅月だから店員に話かけても不思議ではない。しかし、獅月の表情は明らかに曇っていた。
そしてさりげなく俺のいる列から距離をとり、誰かにメッセージを送っているのが棚の隙間から見えた。
そこでようやく思い出す。
ソラと再会を果たしたのは、コンビニだと言っていたことを。
このコンビニだったのか!! なんで忘れてたんだろう。獅月が声をかけていたのは、ソラがバイトに入っているかを聞いていたのか。
急に悔しさに襲われる。
そしてもう一つ気づいたことあった。
昨日、獅月の家に向かう途中に寄った時、レジをしてくれた可愛らしい店員さんを。
もしかして……と考えてしまう。
獅月は誰かと電話をしていたらしく、デニムのポケットにスマホをしまいながら水分やレトルトのお粥なんかを買った。
「ごめん。先に帰っててくれない? ちょっと行く所ができた」
「俺が一緒にいけない所?」
「いや、そういうんじゃないけど。冬哉が知らない人だから。それに、その人が風邪で寝込んでるって……」
「ソラ?」
「あ、うん……」
俺に気を遣って避けていた名前に、目を瞠りながらも頷いた。
「俺も行く。マンションの下で待ってるからいいでしょう?」
獅月のTシャツの裾を掴む。
獅月も冬哉の気持ちを汲んでくれ、了承してくれた。
獅月の家とは違う方向へと歩くのは新鮮だった。本来なら楽しいはずなのに、不安で不安で仕方ない。
ソラに会うことはないと思っていた。
これから、場合によっては獅月とソラが二人で話しているのを目の当たりにするかもしれない。そうなった時、自分が耐えられるのか。
心臓の音が五月蝿くて痛くて、何も喋れない。
またあからさまにソラに対しての気持ちをぶつけてしまった自分に嫌気がさす。
獅月も本当は一人で行きたかっただろう。でももし一人で行かせたら、獅月は今日帰ってこない気がしてならなかった。
これは俺の意地だ。
獅月を渡したくない。
体調不良のソラには申し訳ないけど、今は獅月を渡せない。
性格の悪い友達でごめんなさい。
掴んだTシャツの裾を離せなかった。
心に染みついた虹の輝きを、なくしたくなかった……。
仕方なく、朝、寝たふりをしていたけれど、獅月には何もかもお見通しだった。
「腹、空かねぇ?」
「空く空く」
「やっぱ起きてんじゃん」
「獅月、ズルイよ。休みなんだし、もうちょっとゆっくりしようよ」
「ダメだ。育ち盛りで食べないとぶっ倒れる」
「それ以上成長しなくてよろしい!!」
「ははっ、確かに。冬哉も食うだろ?」
「食うけど」
「食うんじゃん」
……一緒に食べたいからに決まってんだろ。
とは言わなかった。
俺が喜びまくっているのは、きっと顔の全域から溢れ出ているだろうから。これ以上の言葉はウザいだけだ。
それに、獅月が作ってくれるブランチは最高だった。
パスタに、冷食の唐揚げ。インスタントのコーンポタージュ。
「美味しい!!」
「殆どインスタントじゃん」
獅月は笑っている。
「パスタは獅月だろ。簡単にペペロンチーノ作っちゃうんだもんなぁ。こんなのお店で食べたら、俺っちたまらず『シェフを呼んでくれ賜え』って言っちゃうよ」
「なんだそれ」
獅月は声を出して笑い始めた。眉を下げて笑う顔が好きだ。俺もつられて笑う。
「こんなにも美味しい料理が頂けて光栄だ。シェフにお礼が言いたくてね」
「本日は当店をご利用いただき、ありがとうございます。シェフの獅月と申します」
「君かね。とても楽しませてもらったよ。本当にありがとう」
「どういたしまして」
「っ!」
真正面から突然柔らかく微笑む獅月に、ドキッとした。テーブルに肘をつき、手を頬に添え愛おしい物を見るように目を細める。こんな笑い方、初めて見た気がする。
———不意打ち、ズルい。
顔に少し熱を感じる。
結局、今日も獅月の家に泊まることにした。
昨日から降り続いた雨は、結局夕方になってようやく止んだ。
「ねぇ、獅月。雨止んだしコンビニにお菓子を買いに行こう」
「いいね。行くか」
獅月はスマホをチェックしつつ、家を出た。
外に出た途端、雨上がりの空に大きな虹を発見する。
「虹!! 綺麗だ」
俺が見惚れていると、獅月はもう俺の頭の中でメロディーが流れていると悟ったようだ。
「新曲は虹だな」
「綺麗な曲にしたい。柔らかく揺れるような曲」
「いいね」
他愛ない会話が弾む。
雨で濡れた地面が、西陽に照らされてオレンジ色に輝いている。
俺は水溜まりをわざと踏んで水飛沫を上げながら歩く。その少し後ろから、獅月がいつもの苦笑いを浮かべていた。
こんな時間が続きますようにと願わずにはいられない。
コンビニ着いた時、獅月は辺りを見渡し誰かを探している様子だった。
アイスを選んでいる間にこっそり獅月を見ると、中年くらいの店員さんに声をかけている。
何か虫の知らせを感じるが、毎日通うほど常連の獅月だから店員に話かけても不思議ではない。しかし、獅月の表情は明らかに曇っていた。
そしてさりげなく俺のいる列から距離をとり、誰かにメッセージを送っているのが棚の隙間から見えた。
そこでようやく思い出す。
ソラと再会を果たしたのは、コンビニだと言っていたことを。
このコンビニだったのか!! なんで忘れてたんだろう。獅月が声をかけていたのは、ソラがバイトに入っているかを聞いていたのか。
急に悔しさに襲われる。
そしてもう一つ気づいたことあった。
昨日、獅月の家に向かう途中に寄った時、レジをしてくれた可愛らしい店員さんを。
もしかして……と考えてしまう。
獅月は誰かと電話をしていたらしく、デニムのポケットにスマホをしまいながら水分やレトルトのお粥なんかを買った。
「ごめん。先に帰っててくれない? ちょっと行く所ができた」
「俺が一緒にいけない所?」
「いや、そういうんじゃないけど。冬哉が知らない人だから。それに、その人が風邪で寝込んでるって……」
「ソラ?」
「あ、うん……」
俺に気を遣って避けていた名前に、目を瞠りながらも頷いた。
「俺も行く。マンションの下で待ってるからいいでしょう?」
獅月のTシャツの裾を掴む。
獅月も冬哉の気持ちを汲んでくれ、了承してくれた。
獅月の家とは違う方向へと歩くのは新鮮だった。本来なら楽しいはずなのに、不安で不安で仕方ない。
ソラに会うことはないと思っていた。
これから、場合によっては獅月とソラが二人で話しているのを目の当たりにするかもしれない。そうなった時、自分が耐えられるのか。
心臓の音が五月蝿くて痛くて、何も喋れない。
またあからさまにソラに対しての気持ちをぶつけてしまった自分に嫌気がさす。
獅月も本当は一人で行きたかっただろう。でももし一人で行かせたら、獅月は今日帰ってこない気がしてならなかった。
これは俺の意地だ。
獅月を渡したくない。
体調不良のソラには申し訳ないけど、今は獅月を渡せない。
性格の悪い友達でごめんなさい。
掴んだTシャツの裾を離せなかった。
心に染みついた虹の輝きを、なくしたくなかった……。