先日アップロードした動画を見返すと、椅子の背凭れに体を委ねた。
飛び入りとはいえ、久しぶりのライブの高揚感は何にも例えようのない、まさに幸甚の至りだと言える。自分には音楽しかないと何度だって再確認できる場所。ステージは、自分と向き合うためにもなくてはならない空間である。
伊織と響平からの提案で、息抜きに飛び入り参加させてもらえるバンドに声をかけてもらった。俺らと同じくらいblackASHでライブをこなしているバンドだったから、二つ返事で快諾してくれたのだ。あの時間がなければ、今頃自分はどうなっていただろうと考えてしまう。夢中にさせてくれるあの時間は本当に貴重だった。
「楽しかったけどな……」
ポツリと呟くが、ライブも編集も全て終わってしまえば虚しさが生まれる。ぼんやりとパソコンの画面を眺めていた。
───獅月がいれば、もっと楽しかった。
ライブ中は考えないようにしていたけれど、改めて映像を見ると物足りなさは否めない。
完璧ではないエンフェクを人に晒すべきじゃない気もするが……もし……もしこの動画を獅月が観てくれたら、何かが変わるかもしれない。
「なーんて、そんなわけないけどねぇ!」
自虐的にツッコミを入れながらも、自分の思い描くエンフェクにはやはり獅月が欲しい。この映像を客観的に見ることで、まじまじと思い知らされる。
今回はサプライズ出演だったし、勢いだけでやり切ったから客に物足りなさが伝わらなかっただけだ。
獅月は自分の才能に気付いていない。声質も音感も、聴いた人を惹き込むパワーも、何もかも持ち合わせている。それは全て、俺が追い求めた理想そのものだ。
獅月が欲しい。
バンドのためなら、なにもかも捨てられる。自分の恋さえも。なのに……なのに……。
「獅月が恋に溺れてんじゃねぇよぉぉぉおおおおお!!!! ぶぁっかやろーーーー!!!!」
天井を仰いでも、誰もいないこの部屋ではツッコミの一つも飛んでこない。ふぅ……と長いため息を吐くと、再び椅子に凭れた。
誰だよ、ソラって。そんなに良いのかよ。
顔もハッキリ思い出せないその彼女は、たった一瞬で獅月の心を奪っていった。会話もせず、ただそこに立っていただけでだ。
高校の二年と少しを、誰よりも獅月の近くで過ごした俺は、恋愛の意味で意識されたことはない。そりゃ自分の気持ちがバレないように振るまっていたから当然なのだが、たとえゲイを公表していて「獅月が好きだ」と伝えたところで、結果は変わらなかったように感じる。
このライブ映像で少しでも獅月の反応があれば……なんて考えたが、動画を投稿してからも獅月からは連絡がくる気配はない。
少し前に一度だけ、獅月からの電話がかかってきていた時があった。でも、伊織たちと一緒に練習していた時だから気が付かなった。それでも俺からかけ直すなど出来ない。何を話せばいいのかも今だに頭を整理できないでいる。
あれ以来、獅月からは音沙汰なし。完全に見限られたとは———まだ思いたくない。
「獅月……声が聞きたいよ」
机に頭を伏せたいが、パソコン諸々が占領していて無理だった。
ベッドに移動して横たわる。
スマホの画面を見たタイミングで画面が着信画面に切り替わった。そこには獅月の文字が映し出されている。
「え……獅月?」
幻覚かと思い、しばらく呆然としてしまった。しかしいつもなら長くて三コールで切れる着信が、今回は長くなり続ける。本当に獅月なのだろかと疑ってしまうほどだ。
恐る恐る人差し指で通話ボタンを押す。
「———もしもし?」
なるべく声が震えないよう努めたが無理だった。初めて話すのかと思うほど声が震えた。
獅月から電話がかかってきたというだけで舞い上がっている自分がいる。感極まって泣いてしまいそうだ。それでも久しぶりに話せるチャンスに泣いていてはもったいない。なるべく以前と変わらない楽しい時間にしたい。
でも……
『———冬哉?』と名前を呼ぶ、その声があまりにも優しくて、溢れる涙を止めることはできなかったのだった。
飛び入りとはいえ、久しぶりのライブの高揚感は何にも例えようのない、まさに幸甚の至りだと言える。自分には音楽しかないと何度だって再確認できる場所。ステージは、自分と向き合うためにもなくてはならない空間である。
伊織と響平からの提案で、息抜きに飛び入り参加させてもらえるバンドに声をかけてもらった。俺らと同じくらいblackASHでライブをこなしているバンドだったから、二つ返事で快諾してくれたのだ。あの時間がなければ、今頃自分はどうなっていただろうと考えてしまう。夢中にさせてくれるあの時間は本当に貴重だった。
「楽しかったけどな……」
ポツリと呟くが、ライブも編集も全て終わってしまえば虚しさが生まれる。ぼんやりとパソコンの画面を眺めていた。
───獅月がいれば、もっと楽しかった。
ライブ中は考えないようにしていたけれど、改めて映像を見ると物足りなさは否めない。
完璧ではないエンフェクを人に晒すべきじゃない気もするが……もし……もしこの動画を獅月が観てくれたら、何かが変わるかもしれない。
「なーんて、そんなわけないけどねぇ!」
自虐的にツッコミを入れながらも、自分の思い描くエンフェクにはやはり獅月が欲しい。この映像を客観的に見ることで、まじまじと思い知らされる。
今回はサプライズ出演だったし、勢いだけでやり切ったから客に物足りなさが伝わらなかっただけだ。
獅月は自分の才能に気付いていない。声質も音感も、聴いた人を惹き込むパワーも、何もかも持ち合わせている。それは全て、俺が追い求めた理想そのものだ。
獅月が欲しい。
バンドのためなら、なにもかも捨てられる。自分の恋さえも。なのに……なのに……。
「獅月が恋に溺れてんじゃねぇよぉぉぉおおおおお!!!! ぶぁっかやろーーーー!!!!」
天井を仰いでも、誰もいないこの部屋ではツッコミの一つも飛んでこない。ふぅ……と長いため息を吐くと、再び椅子に凭れた。
誰だよ、ソラって。そんなに良いのかよ。
顔もハッキリ思い出せないその彼女は、たった一瞬で獅月の心を奪っていった。会話もせず、ただそこに立っていただけでだ。
高校の二年と少しを、誰よりも獅月の近くで過ごした俺は、恋愛の意味で意識されたことはない。そりゃ自分の気持ちがバレないように振るまっていたから当然なのだが、たとえゲイを公表していて「獅月が好きだ」と伝えたところで、結果は変わらなかったように感じる。
このライブ映像で少しでも獅月の反応があれば……なんて考えたが、動画を投稿してからも獅月からは連絡がくる気配はない。
少し前に一度だけ、獅月からの電話がかかってきていた時があった。でも、伊織たちと一緒に練習していた時だから気が付かなった。それでも俺からかけ直すなど出来ない。何を話せばいいのかも今だに頭を整理できないでいる。
あれ以来、獅月からは音沙汰なし。完全に見限られたとは———まだ思いたくない。
「獅月……声が聞きたいよ」
机に頭を伏せたいが、パソコン諸々が占領していて無理だった。
ベッドに移動して横たわる。
スマホの画面を見たタイミングで画面が着信画面に切り替わった。そこには獅月の文字が映し出されている。
「え……獅月?」
幻覚かと思い、しばらく呆然としてしまった。しかしいつもなら長くて三コールで切れる着信が、今回は長くなり続ける。本当に獅月なのだろかと疑ってしまうほどだ。
恐る恐る人差し指で通話ボタンを押す。
「———もしもし?」
なるべく声が震えないよう努めたが無理だった。初めて話すのかと思うほど声が震えた。
獅月から電話がかかってきたというだけで舞い上がっている自分がいる。感極まって泣いてしまいそうだ。それでも久しぶりに話せるチャンスに泣いていてはもったいない。なるべく以前と変わらない楽しい時間にしたい。
でも……
『———冬哉?』と名前を呼ぶ、その声があまりにも優しくて、溢れる涙を止めることはできなかったのだった。