冬哉と話せないまま、夏休みに入ってしまった。

 学校ではエリが匿っていて顔すら見えない。一度エリにメッセージを送ったが、全面的に冬哉の見方だと言われてしまった。
 その原因がソラのことなのか確認したかったが、それは自分の胸に聞いてみろと(けしか)ける。

「っだよ、余裕でソラのことじゃん」
 確かに今までの自分とは態度が違いすぎるとは自覚している。毎日毎日、ソラのメッセージ一つ、挨拶一つで浮かれているのだ。ソラがバイトの日はいつもより少し早くコンビニへ行ってしまうくらい、俺自身が自分の行動に驚いている。
 毎日会いたいし、声が聞きたいし、ソラから発せられる言葉を紡ぎたい。
 
 自分の人生で、他人に対してこんな風に思ったことはない。初めての感情だ。
 とはいえ今までは別扱いをしたいと思う人に出会えていなかったと言うだけで、俺にも人を好きになる感情くらい持っている。
 それを責められるのならば心外だ。
 俺が彼女をずっと作れないなら、一生一人で過ごせと言うのか。なんて頭の片隅で、少し苛立ちも感じていた。

 ずっと俺を立てておいて、好きな人が出来た途端に距離を置かれるなど、誰が思うだろうか。むしろ冬哉なら、もっと話に食いついてくれると期待していた。
 名前、見た目、年齢、エンフェクのファンかどうか……質問攻めにされるのを覚悟していたくらいだ。
 でも、あの時の冬哉の困惑した顔が今でも頭から離れない。
 予想外の反応に驚いたのは、俺にしてもそうだった。

「やっぱり、話し合わないことには誤解は解けそうにないよな」
 一人自室で呟く。
 バイトまでに時間はたっぷりとある。
 メッセージや電話では、きっと冬哉は暴走して話にならないだろう。面と向かって話合わなければいけない。

 それでもソラのことも諦めるつもりはない。折角再会できて、二人の距離も縮まっている感触を掴んでいる。正直、ソラも俺に興味……というか、気になる存在になっているという自信すらある。

 学校で辟易とする毎日も、ソラとのメッセージや電話のやり取り、そしてコンビニで交わす短い会話。その全てが今日一日がいい日になったと思えるくらいに、嫌なことも忘れられた。
 俺から直ぐに気持ちを打ち明けても良い。でも失敗したくないから少しずつ慎重に接しているのだ。

 冬哉の前で締まりのない顔を見せたのは反省している。
 でもきっと、ちゃんと話をすれば今まで通りに戻れるような気もしていた。

 スマホを取り出して冬哉とのトークルームを開く。長い間やり取りをしていないと思っていたが、意外にもまだ一週間も経っていなかったことに驚いた。
 そのくらい一緒にいる時間や連絡を取り合っている時間が長かったということだ。
 メッセージを打とうとしたところで、着信画面に切り替わった。ソラだ。

「もしもし? ソラ? 珍しいね、ソラから電話なんて」
 受話器の向こうでソラはバイトが終わったから電話してみたと話した。
『今日はお店で会えなかったから、声が聞きたくて……』
「そうなんだ、マジで嬉しい。今日、終業式でさ———」
 冬哉に連絡を……と思いながらもソラを蔑ろにするわけにはいかない。一旦冬哉のことは置いておいて、ソラとの通話を楽しんだ。