結果的に、教室での獅月の様子は想像以上に最悪だった。保健室のベッドに横になり、目元を冷やしながらエリちゃんからのメッセージをチェックする。
「———マジかよ」
HRが終わった後、届いた写真には獅月に群がる女子たちの様子が映し出されていた。
『囲まれすぎて獅月が見えない』
これまでは俺が誰も近寄らないようガードしていたから、女子たちは遠巻きに見ていただけだった。
しかし獅月が一人になった途端にこれか。
「ってか、俺ってもしかして女子から怪訝に思われてたりして」
いろんな不安が押し寄せる。動画がバズってライブも毎回満員御礼。自分自身もモテてないわけではないと感じていたが、勘違いだったような気がする。
きっと女子たちは、俺が獅月の隣からいなくなるのを虎視眈々と狙っていたんだ。
「森田くん、一限目どうするの?」
保健の先生がカーテンを豪快に開け、遠慮なく大きな声で尋ねる。病人ではないのは一目瞭然だが、そんな風に雑に扱わなくても良いじゃないかと言いたくなるほど、思い切り布団を翻した。
「先生、俺っち動けない。教室に行く途中で死んじゃう。無理。このまま帰りたい」
「家に帰るより教室の方が近いでしょう。大目に見てあげるのは一限目だけよ?」
「はぁ〜い」
そそくさと布団を被り直す。
頭まで隠れると、エリちゃんに一限目は保健室で寝る旨を知らせた。
『どうせ逃げられないんだから、さっさと腹括って戻って来なさいね?』
同い年とは思えない、説得力のある正論が送られてきた。
「それができたら苦労してないんだよぅ」
スマホを枕元に置くと、スッと寝入った。昨晩は考えすぎて寝られなかったから、今頃睡魔に襲われる。
昨日もエリちゃんに電話をすれば良かったのかもしれない。今朝話を聞いてもらえて、少しは気持ちが軽くなっている。
そしてカーテン越しに静かに作業する先生の物音、校庭から聞こえるどこかのクラスの体育の授業の声、クーラーの風の音。
カーテンで仕切られて一人の空間が確保されつつ、一人じゃないという安心感。
この心地よさはクセになりそう。
そのままぐっすり眠った俺は、次に先生に起こされた時、見事なまでにすっきりと目が覚めた。
「うん、顔いろもよくなったし、目の腫れもだいぶ引いたわね」
「っあーーよく寝たぁ。先生、ありがとう。また来るね」
「病気と怪我の時だけで良いわよ」
苦笑しながらも「いってらっしゃい」と見送ってくれる先生に手を振る。
さっきの写真の様子じゃ、きっと今も獅月は女子に囲まれているだろう。
こっそり自分の席に着こう。
考えれば、夏休み目前。このままいけばきっと獅月とは話もしないままになる。
結局、ライブの話も大学の話もあやふやなままになっているというのに、避けている場合じゃない。
「しっかりしろ、森田冬哉!!」
自分に言い聞かせて教室の近くまで帰って来た時、なんだか騒がしいのに気がついた。
「あ、冬哉。もう大丈夫なの?」
「ぐっすり寝たらスッキリしちゃって、流石に先生に戻されちった。んで、あの騒がしい声は何?」
「だから、獅月だって。女子たちが騒がしすぎて、何言ってるのか聞き取れないくらいだよ。五月蝿いから出てきた」
エリちゃんがうんざりした表情を見せる。
教室から漏れる女子たちの黄色い声。
これは獅月がすんごい嫌がるやつだ。いつもなら助けに入るけど、今は自分から避けてる分、体が動かない。隣から「行ってあげなよ」と言わんばかりに肘で突いてくるが、「無理無理」と俺からも肘で突き返した。
「獅月が可哀想でしょう」とエリちゃんが肘で突く。
「女子の反感買いたくない」と俺も肘で突く。エリちゃんが行ってきてよと頼むと、「それこそ女子から妬まれる」と高速で顔を振った。
———キレるなよ、獅月。
そう念を送るしか出来なかった。
「———マジかよ」
HRが終わった後、届いた写真には獅月に群がる女子たちの様子が映し出されていた。
『囲まれすぎて獅月が見えない』
これまでは俺が誰も近寄らないようガードしていたから、女子たちは遠巻きに見ていただけだった。
しかし獅月が一人になった途端にこれか。
「ってか、俺ってもしかして女子から怪訝に思われてたりして」
いろんな不安が押し寄せる。動画がバズってライブも毎回満員御礼。自分自身もモテてないわけではないと感じていたが、勘違いだったような気がする。
きっと女子たちは、俺が獅月の隣からいなくなるのを虎視眈々と狙っていたんだ。
「森田くん、一限目どうするの?」
保健の先生がカーテンを豪快に開け、遠慮なく大きな声で尋ねる。病人ではないのは一目瞭然だが、そんな風に雑に扱わなくても良いじゃないかと言いたくなるほど、思い切り布団を翻した。
「先生、俺っち動けない。教室に行く途中で死んじゃう。無理。このまま帰りたい」
「家に帰るより教室の方が近いでしょう。大目に見てあげるのは一限目だけよ?」
「はぁ〜い」
そそくさと布団を被り直す。
頭まで隠れると、エリちゃんに一限目は保健室で寝る旨を知らせた。
『どうせ逃げられないんだから、さっさと腹括って戻って来なさいね?』
同い年とは思えない、説得力のある正論が送られてきた。
「それができたら苦労してないんだよぅ」
スマホを枕元に置くと、スッと寝入った。昨晩は考えすぎて寝られなかったから、今頃睡魔に襲われる。
昨日もエリちゃんに電話をすれば良かったのかもしれない。今朝話を聞いてもらえて、少しは気持ちが軽くなっている。
そしてカーテン越しに静かに作業する先生の物音、校庭から聞こえるどこかのクラスの体育の授業の声、クーラーの風の音。
カーテンで仕切られて一人の空間が確保されつつ、一人じゃないという安心感。
この心地よさはクセになりそう。
そのままぐっすり眠った俺は、次に先生に起こされた時、見事なまでにすっきりと目が覚めた。
「うん、顔いろもよくなったし、目の腫れもだいぶ引いたわね」
「っあーーよく寝たぁ。先生、ありがとう。また来るね」
「病気と怪我の時だけで良いわよ」
苦笑しながらも「いってらっしゃい」と見送ってくれる先生に手を振る。
さっきの写真の様子じゃ、きっと今も獅月は女子に囲まれているだろう。
こっそり自分の席に着こう。
考えれば、夏休み目前。このままいけばきっと獅月とは話もしないままになる。
結局、ライブの話も大学の話もあやふやなままになっているというのに、避けている場合じゃない。
「しっかりしろ、森田冬哉!!」
自分に言い聞かせて教室の近くまで帰って来た時、なんだか騒がしいのに気がついた。
「あ、冬哉。もう大丈夫なの?」
「ぐっすり寝たらスッキリしちゃって、流石に先生に戻されちった。んで、あの騒がしい声は何?」
「だから、獅月だって。女子たちが騒がしすぎて、何言ってるのか聞き取れないくらいだよ。五月蝿いから出てきた」
エリちゃんがうんざりした表情を見せる。
教室から漏れる女子たちの黄色い声。
これは獅月がすんごい嫌がるやつだ。いつもなら助けに入るけど、今は自分から避けてる分、体が動かない。隣から「行ってあげなよ」と言わんばかりに肘で突いてくるが、「無理無理」と俺からも肘で突き返した。
「獅月が可哀想でしょう」とエリちゃんが肘で突く。
「女子の反感買いたくない」と俺も肘で突く。エリちゃんが行ってきてよと頼むと、「それこそ女子から妬まれる」と高速で顔を振った。
———キレるなよ、獅月。
そう念を送るしか出来なかった。