学校へと向かう自転車のペダルが軽い。
風と一体化したような気持ちになる程、心が浮ついている。
学校に着いたらすぐにメッセージを送ろうと思った。誰かに対して自ら動くなど、初めて過ぎて自分自身に驚いている。
しかし、進み出した船を止めることは誰にもできない。自分でさえ、もう前に向いて進むしか出来なかった。
「獅月、おはよー」
丁度のタイミングでバスから冬哉が降りてきた。並んで校内へと入っていく。
この締まりのない顔がバレないようにしようと口元を引き締めるが、一瞬で突っ込まれてしまった。
「なんでニヤニヤしてんの? いい事あった?」
「冬哉、俺の表情読み取りすぎ」
「いやいや、誰でも気付くほど口元緩んでるよ?」
「マジ……?」
「マジ」
駐輪場に自転車と停め、お茶をグイっと飲み干した。気合いを入れないと、一日中笑ってしまいそうだ。
「あのさ、ライヴの時の客、探してたじゃん?」
冬哉には言っておこうと思った。多分、後々知ると五月蝿いというのが一番の理由だが、親友だし、誰かに聞いて欲しい気もある。冬哉なら、誰にも言わない保障付きだ。
校舎に入ると生徒がいっぱいいるから、駐輪場で立ち話をする。
冬哉は少し考え、思い出したと同時に頷いた。
「あんなに前の人、まだ探してたわけ?」
「俺も一時期諦めてたんだけどさ、偶然見つけたんだ。いつも行くコンビニで、向こうがバイト始めてて」
「そうなの!? 凄い偶然じゃん」
「そう、俺もスゲー驚いた。で、これを逃すヘマは許されねぇって思って声かけだんだよね」
「獅月から? そんな事、初めて聞いたよ」
「まぁ、俺自身、初めてだからな。で、さらに奇跡なんだけどあの子、俺の事覚えてくれてたんだ」
意気揚々と話す。
冬哉は呆れた表情をしていたが、俺の興奮している様子を見守っているようであった。
そんな冬哉に気付きながら、地に足が着いていないのも自覚している。
話の途中で、スマホを取り出しメッセージを送る。
『バイト終わった? 俺は今学校着いた』
既読マークがすぐに付く。
『バイト終わったよ。これから大学に向かいます』
たったこれだけの会話で終わったのに、スマホを抱きしめてしまう。
隣で冬哉が愕然としているのが分かった。
「なぁ、俺ってキモい?」
「キモくはないけど、これまでと違いすぎて戸惑うっていうか、そんなにニヤニヤしてる獅月を目の当たりにして、どんな反応を見せればいいのか分からないっていうか、一日中その締まりのない顔は見たくない気もする」
「……キモいんじゃねぇかよ」
「だって、いつものカッコイイ獅月の方がいいもん!!」
ハッキリと言われてしまった。
「獅月はいつだってカッコよくないとダメなの!!」
親友であり、誰よりも俺のファンだと豪語する冬哉を落胆させてしまった。
流石に申し訳なくて「気をつけます」と謝っておいた。
「もし、俺がニヤニヤしてたら教えて?」と言うと「早く昨日までの獅月を取り戻して!!」と懇願された。
マズイよな……とは自分でも思う。口元を抑え、ため息を吐いた。
朝一番に会ったのが冬哉で良かった。
これがエリなら、根掘り葉掘り質問攻めにされただろう。
そんなエリは今日一日、撮影で休みなのだそうで内心ほっとした。
しかしこの後から問題が起きた。なぜか冬哉の機嫌がすこぶる悪い。いつもは休み時間の度に俺のところに来るのに今日は来ない。
話しかけようとすれば、席を立ってしまう。
「冬哉……?」
何か、気に触ることを言ってしまったのだろうか……と朝からの出来事を振り返っても、何も思い当たる節がない。
さすがにいつまでも、だらしない顔をしているわけでもないし。
冬哉はあれだけの音楽を作っているにも関わらず、性格はピュアそのものだ。俺の行動一つで、それほどショックを与えてしまったのかと反省した。
風と一体化したような気持ちになる程、心が浮ついている。
学校に着いたらすぐにメッセージを送ろうと思った。誰かに対して自ら動くなど、初めて過ぎて自分自身に驚いている。
しかし、進み出した船を止めることは誰にもできない。自分でさえ、もう前に向いて進むしか出来なかった。
「獅月、おはよー」
丁度のタイミングでバスから冬哉が降りてきた。並んで校内へと入っていく。
この締まりのない顔がバレないようにしようと口元を引き締めるが、一瞬で突っ込まれてしまった。
「なんでニヤニヤしてんの? いい事あった?」
「冬哉、俺の表情読み取りすぎ」
「いやいや、誰でも気付くほど口元緩んでるよ?」
「マジ……?」
「マジ」
駐輪場に自転車と停め、お茶をグイっと飲み干した。気合いを入れないと、一日中笑ってしまいそうだ。
「あのさ、ライヴの時の客、探してたじゃん?」
冬哉には言っておこうと思った。多分、後々知ると五月蝿いというのが一番の理由だが、親友だし、誰かに聞いて欲しい気もある。冬哉なら、誰にも言わない保障付きだ。
校舎に入ると生徒がいっぱいいるから、駐輪場で立ち話をする。
冬哉は少し考え、思い出したと同時に頷いた。
「あんなに前の人、まだ探してたわけ?」
「俺も一時期諦めてたんだけどさ、偶然見つけたんだ。いつも行くコンビニで、向こうがバイト始めてて」
「そうなの!? 凄い偶然じゃん」
「そう、俺もスゲー驚いた。で、これを逃すヘマは許されねぇって思って声かけだんだよね」
「獅月から? そんな事、初めて聞いたよ」
「まぁ、俺自身、初めてだからな。で、さらに奇跡なんだけどあの子、俺の事覚えてくれてたんだ」
意気揚々と話す。
冬哉は呆れた表情をしていたが、俺の興奮している様子を見守っているようであった。
そんな冬哉に気付きながら、地に足が着いていないのも自覚している。
話の途中で、スマホを取り出しメッセージを送る。
『バイト終わった? 俺は今学校着いた』
既読マークがすぐに付く。
『バイト終わったよ。これから大学に向かいます』
たったこれだけの会話で終わったのに、スマホを抱きしめてしまう。
隣で冬哉が愕然としているのが分かった。
「なぁ、俺ってキモい?」
「キモくはないけど、これまでと違いすぎて戸惑うっていうか、そんなにニヤニヤしてる獅月を目の当たりにして、どんな反応を見せればいいのか分からないっていうか、一日中その締まりのない顔は見たくない気もする」
「……キモいんじゃねぇかよ」
「だって、いつものカッコイイ獅月の方がいいもん!!」
ハッキリと言われてしまった。
「獅月はいつだってカッコよくないとダメなの!!」
親友であり、誰よりも俺のファンだと豪語する冬哉を落胆させてしまった。
流石に申し訳なくて「気をつけます」と謝っておいた。
「もし、俺がニヤニヤしてたら教えて?」と言うと「早く昨日までの獅月を取り戻して!!」と懇願された。
マズイよな……とは自分でも思う。口元を抑え、ため息を吐いた。
朝一番に会ったのが冬哉で良かった。
これがエリなら、根掘り葉掘り質問攻めにされただろう。
そんなエリは今日一日、撮影で休みなのだそうで内心ほっとした。
しかしこの後から問題が起きた。なぜか冬哉の機嫌がすこぶる悪い。いつもは休み時間の度に俺のところに来るのに今日は来ない。
話しかけようとすれば、席を立ってしまう。
「冬哉……?」
何か、気に触ることを言ってしまったのだろうか……と朝からの出来事を振り返っても、何も思い当たる節がない。
さすがにいつまでも、だらしない顔をしているわけでもないし。
冬哉はあれだけの音楽を作っているにも関わらず、性格はピュアそのものだ。俺の行動一つで、それほどショックを与えてしまったのかと反省した。