♦︎♢♦︎
冬哉とのライブから一ヶ月が経ったが、あの女性客は一度もblackASHに現れていない。
対バン相手の中の誰かと繋がっているなら、あれから最低でも二回は来る機会はあったはずだ。
通りすがりでライブハウスに来るような雰囲気でもな買ったと記憶している。
大体、あの爆音の中で一人だけ異空間にでもいるような面持ちで立っていた。あんな人は後にも先にも見たことがない。
時間が経てば忘れるだろうとの読みは外れた。
それどころか、日に日に『また会いたい』と言う気持ちは膨らむ一方だった。
冬哉たちは、またバイト代が貯まるまでライブはしないと言っていた。受験を控えていることから、今までのようにバイトに入れなくなっている。バンド活動には少なからずの出費は必要だ。スタジオ代や楽器のメンテナンス、エンフェクに至っては動画配信用の機材に至る。それらを少しずつ揃えていって今がある。
俺は今までバンド活動などしたことがなかったから、バイトをしているとはいえ、働くのは殆ど趣味のようなものだった。
冬哉から同じ大学に行かないかと誘われた。
「万が一だが、一緒に音楽活動をするなら獅月も進学した方が良さそうだろう」と冬哉は言う。
きっと母の彩子も大学に行くといえば喜ぶだろう。
「そういえば、どこの大学か聞いてなかったな」
自分があまりにも大学に興味がなさすぎて、冬哉のことを何も知らないまま過ごしていたと気付いた。
自分にも親友にも関心を持たないのは、直さなければいけない。
明日は冬哉とご飯でも行くかと、ぼんやり考えた。
「獅月、あの女の子、あれからまた来たんだぜ? お前狙いで」
バイトに行くと、オーナーが機材の準備をしながら話し出した。
「え? あの女の子って?」
まさか、期待したが期待外れだった。
blackASHに来たのはT高の女だと判明し、わかりやすく落胆した。
「なんだ。会わなくて良かった」
「獅月ってなかなかにクズだよね。興味なければ素っ気ないを通り越してる」
オーナーが呆れた顔を見せる。「女には優しくしろよ?」と説得力のない言葉をかけられた。
「俺は別に。むしろ向こうの要望に最低限応えたし」
「だから、それが最低だって言うんだよ。ま、若いうちはそうかもな」
「一応、俺なりの誠意は見せましたけど」
「まぁ本命ができたら、また変わるさ」
T高校の女子は、適当な言い訳をして帰って貰ったとオーナーが付け足す。
「あざっす」
頭をぺこりと下げると、二度と来るなと願った。
俺が会いたいのはそっちじゃない。
「あのショートカットの子、結局誰だったんだろ……」
あの後、対バンのメンバーにも何人か話を振ってみたが、手がかりは掴めなかった。
「あの時言ってた子か? 確かに、ライブが良かったならまた来てもいいようなもんだけどな」
オーナーも肩を竦める。
「そのうち来るだろうよ。獅月が歌えばね」
「なんで俺が歌えば来るんですか? あの日だって、誰にも言ってなかったんっスよ?」
「にも関わらず、あの日の売り上げは今月のトップに躍り出たと言うわけだ。俺としては、また是非とも獅月に歌ってほしいよ」
「それの論点は俺の歌じゃなくて、店の売上でしょうが!!」
オーナーは爆笑しながら『ごめん』と、手を振る。
「でもさ、素直にまた聞きたいと思うよ。お前が歌ってるエンフェクの音楽を」
「それ、冬哉が聞いたら泣いて喜びそう」
「やっぱ、バンド加入誘われてるんだ? オッケーしないのは、何か理由でもあるのか?」
「冬哉たちはメジャー狙ってるから。俺みたいなハンパもんがいたら、迷惑かけるかなって」
それを聞いたオーナーは「獅月らしくない」と言って、さらに爆笑した。
「獅月がそんなネガティブに考えるなんて、珍しいな」
「そのくらい、冬哉とエンフェクが好きってことっスよ。本気で、成功してほしいって思うからこそです」
「そのデッカい波を生み出す起爆剤に、お前ならなれると俺は思うけどな」
オーナーの言葉に、俺は一驚した。
冬哉とのライブから一ヶ月が経ったが、あの女性客は一度もblackASHに現れていない。
対バン相手の中の誰かと繋がっているなら、あれから最低でも二回は来る機会はあったはずだ。
通りすがりでライブハウスに来るような雰囲気でもな買ったと記憶している。
大体、あの爆音の中で一人だけ異空間にでもいるような面持ちで立っていた。あんな人は後にも先にも見たことがない。
時間が経てば忘れるだろうとの読みは外れた。
それどころか、日に日に『また会いたい』と言う気持ちは膨らむ一方だった。
冬哉たちは、またバイト代が貯まるまでライブはしないと言っていた。受験を控えていることから、今までのようにバイトに入れなくなっている。バンド活動には少なからずの出費は必要だ。スタジオ代や楽器のメンテナンス、エンフェクに至っては動画配信用の機材に至る。それらを少しずつ揃えていって今がある。
俺は今までバンド活動などしたことがなかったから、バイトをしているとはいえ、働くのは殆ど趣味のようなものだった。
冬哉から同じ大学に行かないかと誘われた。
「万が一だが、一緒に音楽活動をするなら獅月も進学した方が良さそうだろう」と冬哉は言う。
きっと母の彩子も大学に行くといえば喜ぶだろう。
「そういえば、どこの大学か聞いてなかったな」
自分があまりにも大学に興味がなさすぎて、冬哉のことを何も知らないまま過ごしていたと気付いた。
自分にも親友にも関心を持たないのは、直さなければいけない。
明日は冬哉とご飯でも行くかと、ぼんやり考えた。
「獅月、あの女の子、あれからまた来たんだぜ? お前狙いで」
バイトに行くと、オーナーが機材の準備をしながら話し出した。
「え? あの女の子って?」
まさか、期待したが期待外れだった。
blackASHに来たのはT高の女だと判明し、わかりやすく落胆した。
「なんだ。会わなくて良かった」
「獅月ってなかなかにクズだよね。興味なければ素っ気ないを通り越してる」
オーナーが呆れた顔を見せる。「女には優しくしろよ?」と説得力のない言葉をかけられた。
「俺は別に。むしろ向こうの要望に最低限応えたし」
「だから、それが最低だって言うんだよ。ま、若いうちはそうかもな」
「一応、俺なりの誠意は見せましたけど」
「まぁ本命ができたら、また変わるさ」
T高校の女子は、適当な言い訳をして帰って貰ったとオーナーが付け足す。
「あざっす」
頭をぺこりと下げると、二度と来るなと願った。
俺が会いたいのはそっちじゃない。
「あのショートカットの子、結局誰だったんだろ……」
あの後、対バンのメンバーにも何人か話を振ってみたが、手がかりは掴めなかった。
「あの時言ってた子か? 確かに、ライブが良かったならまた来てもいいようなもんだけどな」
オーナーも肩を竦める。
「そのうち来るだろうよ。獅月が歌えばね」
「なんで俺が歌えば来るんですか? あの日だって、誰にも言ってなかったんっスよ?」
「にも関わらず、あの日の売り上げは今月のトップに躍り出たと言うわけだ。俺としては、また是非とも獅月に歌ってほしいよ」
「それの論点は俺の歌じゃなくて、店の売上でしょうが!!」
オーナーは爆笑しながら『ごめん』と、手を振る。
「でもさ、素直にまた聞きたいと思うよ。お前が歌ってるエンフェクの音楽を」
「それ、冬哉が聞いたら泣いて喜びそう」
「やっぱ、バンド加入誘われてるんだ? オッケーしないのは、何か理由でもあるのか?」
「冬哉たちはメジャー狙ってるから。俺みたいなハンパもんがいたら、迷惑かけるかなって」
それを聞いたオーナーは「獅月らしくない」と言って、さらに爆笑した。
「獅月がそんなネガティブに考えるなんて、珍しいな」
「そのくらい、冬哉とエンフェクが好きってことっスよ。本気で、成功してほしいって思うからこそです」
「そのデッカい波を生み出す起爆剤に、お前ならなれると俺は思うけどな」
オーナーの言葉に、俺は一驚した。