「それで、なんですけど。次は私の質問に答えてもらってもいいですか?」

 何故か十も年下の少女──しかも一国の王女である──に膝枕をされながら、質問を受けるアデル。夢であったと言われる方がまだ納得がいく状況だった。

「は、はい。俺に……いえ、私に答えられる事であれば」

 アデルの慣れない一人称が面白かったのか、アーシャは可笑しそうにくすくす笑った。

「言葉遣いは気にしないで下さい。先程までの通り、話しやすい話し方で構いませんから」
「ですが、殿下」
()()、ただの怪我人と治療者です。あんまり聞き分けが悪いと、その殿下が怒りますよ?」

 むむっと怒った表情を作って、アーシャがアデルの顔を覗き込んだ。
 下から見ていた事もあって、その顔が面白くて思わずアデルは噴き出してしまった。思わず噴き出してしまったが、時と場所によっては死罪も有り得る無礼だ。
 アデルは慌てて表情を作り直すが、肝心の姫君は気にした様子もなくにこにことした笑顔に戻っている。

(全く……とんでもない王女殿下だな。大陸の方じゃ考えられない)

 アデルは肩を竦めて、「わかったよ」と敬語を使う事を諦めた。
 少なくとも誰も今は見ていないのだ。本人が良いと言っているのだから、良いのだろう。

「……では、まずあなたのお名前から聞いてもいいですか? ずっと訊こうと思っていて聞きそびれてしまっていたので」

 なんとお呼べすればいいのかわからなくて困ってました、と王女は微苦笑を浮かべた。
  
「えっと……俺はアデル=クライン。大陸の西側にあるランカールの町ってところで冒険者や傭兵をやっていた」
「アデルは大陸の冒険者の方だったんですね! 私、冒険者の方とお話するのは初めてです」

 アデルの何ともない自己紹介を、王女は瞳を輝かして楽しそうに聞いていた。
 警戒心がないというか、何というか……その無警戒さにはアデルとしても心配になってしまうが、膝枕をされている状態では何を言っても説得力がない。結局何も言わずに彼女の次の言葉を待った。

「それでは、アデル。アデルはどうして王家の洞窟にいて、あんなに大怪我を負っていたんですか? あの傷は明らかにここに住む魔物から受けたものじゃないですよね?」

 王女が早々に核心に迫る質問をしてきた。
 アデルは何と答えようか迷ったが、ここで会ったのも何かの縁だろうと思い、一切合切全て話す事にした。それに、彼はこの少女に命を救われている。彼女には全てを話す義務があるだろうと思ったのだ。