「ごほ、ごほっ」

 特別、不健康だったわけじゃない。
 だけど、大事な学校行事当日には必ず体調を崩してしまう。
 それが俺、穂鳥羽在音(ほとばあると)が生まれて持った宿命だった。

「っ」

 遠足って何?
 運動会って何?
 文化祭?
 修学旅行って、どういうもの?

「はぁ、はぁ……」

 出席日数どうのこうので、無理矢理参加した行事もある。
 だけど俺は、いっつも保健室の先生の傍。
 心の底から笑い合うクラスメイトたち。熱心に行事に取り組む後輩たち。学校生活最後の行事に涙を流す先輩たち。

「いつもの風邪……いつもの風邪……」

 だけど俺は、いつもいっつも。
 みんなの輪から外れていた。

「俺だって、ちゃんと学校通いたい……」

 自業自得って人は言うけれど、俺は俺で必死だった。
 今度こそ、俺はみんなと一緒に行事に参加するんだって意気込んで、健康を維持しようと努力した。
 でも、その意気込みこそが裏目に出てしまう原因だったのかもしれない。
 やっぱり俺は、今回もみんなの輪の中に入れなかった。

「まともな青春、経験したいんだよ……」

 大きくなれば、事情も変わる。
 ちょっとは丈夫な体になれるんじゃないかと思っていたのに、反省する気がないのかなんなのか。
 人生を左右する、大事な大事な高校受験当日に道端で倒れるほどの高熱を出した。

在音(あると)! 在音っ!」

 病院に運ばれる際の車内で、どんどんと意識が遠ざかっていくのを感じた。

「息子さんに触れてあげてください」

 あ、人間、死ぬときって、こんなにあっけなく幕を閉じるもんなんだって少し他人事のようなことを思った。

(あーあ……次の人生は、泣き顔なんてみたくないなー……)

 せっかく産んでもらったのに、なんで泣かせることしかできなかったのか。
 俺を命がけで生んでくれた両親よりも先に亡くなるなんて、何をどう償えばいいのかすら分からない事態。
 何も親孝行できていない上に、最期は泣き顔でお別れとか、意味が分からない。
 どうして最期、ありがとうって言葉で終わることができなかったかな。



『この世界は幸運の高さが、すべてを左右する世界』



 風邪をこじらせて死んだ俺を待っていたのは、聞き慣れない女性の声。
 凛とした声が女神さまっぽいなーって印象だけは残っているのに、肝心の女性の顔を見ることなく俺は新たな人生を授かった。



『美味しい物をいっぱい食べて、しっかり寝て、それで健康な身体を維持すること』



 生前は、家族の笑顔に救われた。
 体調を崩しやすかった俺に、ずっと笑顔を向け続けてくれた家族。
 本当に、本当に、ありがとうございました。
 元気になったら、また会うことができたら、俺は必ずありがとうって言葉を伝えられる人間になりたい。