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 右足骨折で、全治三ヶ月。
 病院に運ばれてから告げられた診断に、私は身震いした。複雑な骨折ではなかったから、マシな方だとはいえ、目が見えないことによって明確な怪我をしたのは初めてだったのだ。

「こんなことがあと何回起こるのかな……」

 誰もいない病室でひとりごちる。
 せっかく綾人くんに救ってもらった命を大切にしようと誓ったばかりなのに。情けなさとやるせなさで気がどうにかなりそうだった。
 綾人くんは私を病院に見送ったあと、「また来るから今日はゆっくり休んで」と言って帰っていた。その気遣いをありがたく感じながらも、心の中は不安でいっぱいだった。

「鈴ちゃん、大丈夫!?」

 伯母さんと伯父さんが病室へとやって来る。こんなことが前にもあった。私は本当に二人に心配と迷惑をかけてばかりだ。

「伯母さん、伯父さん、私——」

「いいから、今日はゆっくり休んでいなさい。話はまた落ち着いてからゆっくり聞くから」

「そうだぞ。余計なことは考えなくていい。家のことは何も心配いらない。鈴ちゃんが元気になるのが一番大事だ」

 変わらない愛と優しさで私の心ごと包んでくれる二人。私は、溢れそうになる涙を堪えて必死に頷いた。
 今日は二人の言う通り、何も考えずに休もう。
 寂しさと、一抹の不安を心の隅っこに追いやって、私はその日ゆっくりと夜の底に沈んでいった。


 翌日から、絶対安静の日々が始まり、毎日悶々としながら過ごした。
 足を固定されているので思うように動けず、ベッドの上でひたすら本を読んだ。伯母さんが楽譜を持って来てくれたので、楽譜を膝の上に置いて、指を動かすのを繰り返す。正直楽譜の譜面は半分ぐらいしか視界に映らない。それでも身体に覚え込ませた動きを、指は無意識に再生する。一時避けていたピアノだったけれど、目の前に鍵盤が現れたら、きっと今すぐにも音を奏でられる。身体が覚えているのだ。私はやっぱりピアノが好きだ。
 綾人くんは、なかなか病室に姿を現さなかった。
 連絡を入れると、「ごめん、すっごく行きたいんだけど、今仕事が立て込んでしまって……。落ち着いたら絶対に行くから」という言葉と共に、男の子が「ごめんね」と謝っているスタンプが送られてきた。仕事が忙しいなら仕方あるまい。寂しいと思う気持ちはあるけれど、私は彼が仕事に打ち込む姿が一番好きだ。だから、私に構わず頑張ってほしいと思う。

【落ち着いたらでいいよ。私はいつでもウェルカムだから】

 こんなふうに冷静に返事をすることができるのも、彼のことを信じているからだ。
 彼がずっと、私のそばで光を見せてくれることを信じてる。
 もう彼を見失ったりしない。
 花見丘陵公園で綾人くんが私にくれた言葉が、私を今も、勇気づけてくれる。
 だから大丈夫。
 綾人くん、どうか目の前のお客さんを大切に。
 毎日、病院のベッドの上で私は祈り続けた。