柵を越えて公園の方へと降り立った私たちは、手を繋いだまま公園の出口へと歩き出した。捨て置かれた白杖はきちんと私の手の中に収まっている。

「伯母さんもすごく心配してたよ。今日は早いとこ帰ろう」

「そうだね。本当に、みんなに迷惑かけちゃった」

「これから取り戻せばいいよ。鈴ちゃんならそれができる」

 どこまでも優しい綾人くんの言葉に頷きながら、元来た道を戻り、出口の石段を降りている最中だった。

「あっ」

 つるり、と足が滑って階段を踏み外したと同時に、身体が斜めに傾いた。
 白杖がカラランと音を立てて一気に階段の下まで落ちる。状況を把握するより前に、白杖を追いかけるようにして、私の身体は階段の上を滑り出した。

「鈴ちゃんっ!?」

 悲鳴にも似た綾人くんの声がして、彼の手が私の腕を掠める。私は呆気に取られたまま、身体を打ちつけながら階段の下まで転げ落ちた。
 段数にして三十段ほど。落ちた瞬間、全身の毛が総毛立つのを感じた。

「いっ……」

 声を上げるのもままならない。慌てて降りて来た綾人くんが私の身体を抱き起そうとするけれど、痛みで顔を歪めてしまう。

「鈴ちゃん、大丈夫!?」

 彼は私に声をかけながら、スマホで必死に「一一九」のボタンを押す。

「きゅ、救急車お願いしますっ」

 気が動転した綾人くんの声が頭上から降ってきて、私はやってしまったと冷や汗が止まらない。
 一メートルほど先に転がる白杖に手を伸ばしたけれど、私はそれを掴むことができなかった。