「ジュース! 今すぐそいつから離れろ!」

「っ!」

ランスの声が届いたと同時に、ジュースの中でも嫌な予感が過り、直ぐにアビスと距離を取るために後ろへとジャンプしようとする。

しかしアビスはジュースを逃しまいと、ツルを大量に出現させて捕獲体勢に入った。

大量のツルがジュースの目の前に迫った時、ある一人の影がジュースの前に降り立った。

その影は背中に背負っていた大剣を構えると、目の前に迫って来ていたツルを一掃した。

「お、お前……ハノスじゃないか!」

「……」

ハノスと名前を呼ばれた青年は、アビスに人睨み効かせてからジュースの方へと振り返る。

口元に灰色のマフラーを巻いているせいで表情を読み取ることは難しいが、ジュースに名前を呼ばれたハノスは、少なからず嬉しそうに見える。

「ハノス、お前は『あの方』と共に本部に残るように言ったはずだ。それなのに、どうしてここに居るんだ!」

「……」

ジュースの問いかけにハノスは何も答えず、もう一度大剣を構えるとアビスに向かって行った。

「おい、ハノス! 人の質問に答えろ!」

「ジュース! その件は後だ! 今はこいつを片付ける事が優先だ!」

「っ!」

アビスの体から出ている黒いツルは、何度斬り捨てても直ぐに再生してしまう。その光景にジュースは舌打ちする。

「ランスさん! これじゃあキリがないですよ! 斬っても斬っても直ぐに再生してしまいます!」

「んなぁ事は分かってる、ヨシュア! おい、ジュース! ハノスに続いて一人で突っ込むような真似はやめてくれよ! お前がこんなところで死んだら、誰が一番悲しむのか分かってんだろうなぁ!」

「……えぇ、分かっていますよ。ハノス! 一旦こっちへ戻れ!」

ジュースの言葉にハノスは小さく頷くと、最後にこちらへ伸びて来ていたツルを斬り捨て、後ろに大きくジャンプしてジュースの隣に降り立った。

四人はそれぞれ武器を構えると、アビスの様子を伺いつつ、どうすれば良いのかと思考と巡らせた。

「ランスさん。サテラの武器なら遠距離で攻撃が出来ます。だから――」

「確かに、サテラの武器ならアビスに一撃を与えられるだろうなぁ。しかし今のアビスからはあのツルが出ていやがる。下手に攻撃をして、アビスの意識がサテラに行っちまったら、確実にサテラが捕まる。それだけは絶対に避けないといけないことだぁ」

『誰一人して死なせずに帰る』

それがこの部隊の第一目標であり、何よりも優先すべき事項だった。

だからジュースたちは、ランスの発言に否定的な事は言えず、ただひたすらにどうすれば良いのかと思考を巡らせていた時、突然雪がピタリと空中で静止した。

「あれ? ……吹雪が止んだ?」

不思議に思ったヨシュアは、辺りに目を配った。

するとアビスの後ろに、青黒のマントを羽織った人物が一人立っていた。

その姿にハノスを除く三人は、驚いて目を丸くする。中でもジュースはその姿を見て、深緑色の瞳を揺らしながらじっと見つめていた。