私は、子供の頃から本が好きだった。
 お母さんに読んでもらった絵本から始まり、児童書、児童文庫、文庫本と変わっていき、今ではジャンルを問わず様々な物語と出会いたいと思っている。
 本を読んでいる時は、好きな世界や知らない世界に私を連れて行ってくれて、人生をより楽しいものにしてくれる。
 本が私を育ててくれたと言っても、過言ではないだろう。

 そんな私のもう一つの楽しみは、本屋さん巡りだった。
 今日は土曜日だけど雨で、みんなで集まることもないから、私は傘を差し本屋さんまで足を運ぶ。
 本来なら憂鬱にさせてくる雨は、私にとっては開放的で自由にしてくれるもの。
 傘に当たるポツポツという音までが心地よく、私の足取りは自然と速くなっていた。
 商店街に立地されている本屋さんに着いた私は、差してきた物を閉じて傘立てに差す。
 そして逸る気持ちを抑えつつ自動ドアの前に立つと、ウィィィンと開き私の気分は最高潮まで高鳴った。
「いらっしゃいませ。……あ」
 私に気付き笑いかけてくれる店長さんに、軽く頭を下げる。
 子供の頃からお店に来ていた私はもうすっかり常連で、店長さんに「もう読んだの?」と聞かれるぐらいだ。
 と言うのも、私は読み終わるまで他の本は買わないと決めており、次お店に来るのは買った複数本を読み終わった後となる。
 それほど本は私にとって必要で、絶対なもので、そしてこの本屋さんは私の居場所だった。
 入店すると、そこはインクの匂いがし本が棚にビッチリ詰まっている。
 その光景はどんな美しい景色よりも、私の心を掴んで離さなかった。

 今時は電子書籍とか、読み放題サービスがあるけど、私は変わらず本を買う。
 このインクの香り、紙の手触り、偶然の出会い。
 それはまるで人と同じような運命を感じることもあり、その出会いを求めて本屋さんに来ている。
 ……ただ、そんなこと口にしたら周りはドン引きだと分かっているから、心でだけいつも運命の出会いに感謝してる。
 今日はどんな出会いがあるのだろう?