「ただいま」
家に帰ってきたら八時を過ぎていて、外灯に照らされた玄関ドアを開けたら、パタパタと足音が聞こえてきた。
「おかえり。楽しかった?」
満面の笑顔で迎えてくれる、お母さん。
「うん」
だから私も、満面の笑顔で返す。
「夜ご飯は?」
「食べてきたんだ。ごめん、明日食べるね」
「いいの。いいの。お風呂入っちゃいなさい」
「ありがとう」
その言葉に甘え、お風呂に入る。
だけどその時間は、一人だけど一人ではない。
SNSを開けばみんな今日の投稿をしていて、コメントのやり取りで盛り上がっている。
私は、また出遅れてしまった。
しかし三人とも同じ写真。
どうコメントするべきなんだろう?
大体、さっきまで一緒に居たのに、何について書けばいいのだろう?
パフェ、勿体なかったな。
そんな考えがグルグルと巡っていく。
悩んだ挙句、当たり障りないことをコメントし、全然リラックス出来ない入浴タイムを終え。明日提出の課題をすれば、気付けば十一時。
やっと一日が終わった。
思わず伸びをし、自然と笑みが溢れる。
さあ、続きを読もう。今日で最後まで読み切れるよね?
胸の高鳴りを感じながら、勉強机の引き出しを開け取り出したのは一冊の文庫本。
栞を挟んだ場所までペラペラとページを捲ると、ふわっと漂うインクの香り。
挟んでいた栞を外し、続きの文章を読み始めた時に、その音は聞こえた。
ピコン。
メッセージアプリの通知音だった。
その瞬間にズンとくる、胸に何かが突っかかる不快感。
本のページを親指で挟みながら、恐る恐る手帳型のスマホカバーを開けると、予想通り莉乃からのメッセージだった。
時刻は十一時過ぎている。寝ていたことにして、明日謝れば良いと自分に言い聞かせるけど、でも前にそれで怒らせてしまったことがあった。
そうなったら、また。
すぐに終わる内容であることを願いながらメッセージを開こうとすると、またピコン、ピコンと鳴り響く。
その内容を見た私は、また溜息を吐いてしまった。
『SNSのショート動画ヤバいよね? 私らも、今日買ったグッズ持って踊らない?』
『今思ってたとこ!』
『じゃあ、明日の昼休み撮影しよう!』
『今から練習して、明日合わせよう』
その内容に、震える手で『いいね』と打ち込む。
あの速いダンスを? 一日で?
本に栞を挟むことすら忘れるぐらい心が乱れた私は、仕方がなくそのまま引き出しに本を戻し。昼間の映像をダウンロードして、イヤホンを付け歌と映像を見出す。
キーが高い曲で照明がチカチカとなる演出に、目や頭が痛くなるが、私は見続け振り付けを覚えていく。
みんな好きなんだから。
人気なんだから。
そう思いレイの曲や映像を全て見てきたが、今回の新曲を含め好きになれるのは一つもなかった。
元々、歌聴いたり踊ったりするのは好きじゃない。
SNSの写真もショート動画も興味ない。
本当は静かな部屋で、本をゆっくり読みたい。
一人で誰にも気兼ねなく過ごしたい。
そう思う私は、普通の感覚ではないのだろうか?
みんなが言う通り、「変な子」なのだろうか?
そうなの? お母さん?