「私達は似た者同士だったんだね。私が書いていた小説、あれは私だよ」
「え? うそ!」
 そんな訳あるはずがない。
 誰とも群れることも、媚びることもないはずの麗華がそんなはず。
「本当、私も文と一緒で中学の頃はそうだったの」
 過去の自分を懐かしむように、麗華は話を始めた。

「中一で浮き始めた自分に気付いて、慌てて流行りに乗ったの。推し活や、SNS映えとかしてた。でも別に特別嫌とかの感情はなくて、一つの趣味になったらと思っていた。だけどね、私はハマれなかった。周りは煌めいているのに、私だけ置いてけぼり。辛くて辞めたかった。思い切って抜けようとした。でも……、そんな時に妹が登校拒否するようになって……」
 ははっと無理に笑う姿は、あまりにも切なかった。

「小六で。妹が漫画好きだと、前に話したよね? 私と同じで、創作にも興味あって書いてたんだよね。だけど、学校でクラスメイトにノート見られて、……キモい、とか言われたみたいで……」
「酷い」
 麗華の潤んだ瞳に、妹を案ずる姉の姿を見たような気がした。きっと自分のことのように、心を痛めたのだろうと。

「引きこもるようになった妹見て、怖くなったの。だから、グループ抜けられなくて。だけど好きじゃないものを好きなふりをしているうちに、どんどん心が擦り減っていって、本当の自分が分からなくなっていった」

 そうだったんだ。
 麗華も苦しんでいたんだね。
 だから、やめるように言ってくれたんだ。
 あの日の言葉が、私の中で響いてくる。

「妹さんは?」
「漫画描くのを辞めて一年引きこもってしまったけど、転機が訪れたの。私が周りに合わせる為に聞いていた、アイドルの歌を気に入ってね。それから少しずつ部屋から出てきて、元気になって、その歌を聞いていた。歌にはパワーがあると聞いたことあったけど、本当なんだなって。その姿に思ったんだ。私にとってはどうでもいいものでも、誰かにとってはかけがいのないものがあるんだって。それを適当に扱うのは、妹の趣味を馬鹿にした人と同じだって。だから推し活もSNSも辞めようと考えた。……だけど、やっぱり怖くて。勇気で出なくて。そんなの時にダウンロードしたアイドルの歌詞を見て、その言葉に励まされて行動に移せた。そのアイドルがレイだった」
「え?」
 思わぬ名前に、私は思わず声を出していた。

「そしたら孤立したけど、やっと息が吸えるような気がしたの。私は自由だって。妹も一学年遅れてもう一度学校通い始めて、そこでレイのことでみんなと話が合って学校楽しくなったみたいで、今ではすっかり元通り。全てはレイのおかげなの。私は大きな音や煌めく演出は苦手だけど歌詞は好きでね。作詞作曲もレイなんだよ?」
「そうなんだ。歌詞、見てみたいな……」
「あるよ。写メってるんだよね。見る?」
「見る!」
 そう言い、麗華のスマホを覗き込んだ。
 
『君は君のままでいい』
『合わせるなんてナンセンス』
『信じた道を貫き通せ』
『ぶちこわせ、くだらない価値観を』
 レイの歌詞にはそんなメッセージが溢れていて、こんな素敵な歌だと知らなかった。
 そっか。私は物事を表面しか見ていなかったんだ。みんなが共感する気持ちが、初めて分かったような気がした。