「はぁはぁはぁ」
教室に残っていたのは麗華一人だった。
窓からの景色を眺めているその背中は儚く、やはり私の杞憂ではなかったのだと思い知らされる。
だから、声をかけようとした。
今更過ぎるけど、自分勝手過ぎるけど、どうしても話をしたくて。
すると麗華は振り返ってきてこちらに目をやり、表情を歪めたかと思えば、スクールカバンを肩にかけて慌てて教室から出て行こうとする。
「待って! 話を聞いて!」
そう言い引き止めようとするけど、麗華は足を止めず私の前をすり抜ける。
やっぱりダメだ。話をする為には私の秘密を話さないといけない。
だから、手紙にもメッセージにも書き綴らなかったことを言うと決めた。
「麗華!」
私は廊下中に響く声でその名前を叫んだ。
すると突如立ち止まり、こっちに駆け寄って来て一言。
「ちょっと、ここ学校……」
周りをキョロキョロ見渡しながら私を教室に連れて行ってくれ、変わらず麗華は私の学校での立場を守ろうとしてくれていた。
「もういいよ。ごめんね、バカな考えに付き合わせて。こんなことでしか、自分の居場所を守れないと思っていた。だけど、本当に大切なものを失くして初めて気付いたの。虚言の自分を守って、大切なもの失くして、それを取り返すこともしない。何やっているんだろうって」
そう言った私は、スクールカバンを漁り一つの物を取り出す。
「これ読んで」
差し出したのはボロボロのノートで、表には「三年二組 さいとう 文」と名前が書いてあり。一見すると、小学生が使う国語のノートだった。
それを見た麗華は、私の顔を訝しげな表情を浮かべて見つめてきたが、それを手に取り一ページから目を通してくれた。
一枚、また一枚と捲っていくうちに私が見て欲しい場所まで辿り着いたみたいで、麗華は目を丸くし私を見つめてきた。
それからすぐにノートに視線を戻して時間をかけてゆっくり読む姿に、私は顔から火が出るような心情だったが、知って欲しかった。昔の私を。変わりたいと思った私を。
「私も書いていたの小説……」
読み終わった麗華に、やっと言えた一言だった。