あの日、麗華に正論を告げられた私はそのまま家を飛び出した。
私はよほど学習能力がないのか、傘もカバンも制服も何も持っておらず、ただ雨に濡れていた。
そこに駆け寄って来てくれたのは、麗華だった。
私にそっと傘を差してくれた。
帰るのは良いから傘は差して帰れだって。
明日、カバンも制服ないと困るだろうからちゃんと持って帰れだって。
そう言って、自分の傘を持っていなかった麗華は雨に濡れながら帰って行った。
ここまで身勝手で、わがままな私のことを気にかけてくれた人は今まで居ただろうか?
貸してくれた服は、次の日に彼女の席に置いておいた。
だけどそれ以来、私は話しかけることが出来なくて。ありがとうも言えなくて。ごめんなさいも言えなくて。今日まで来てしまっていた。
謝りたい。
そう思った私は、集めたノートを抱き締めるように両手でしっかり持ち、麗華を追いかけた。
階段を降りて行くと、その先には一冊のノートを携えて一段一段と落ち着いた雰囲気で歩くその姿。
追いついたことが嬉しく気が緩んでしまい、次の瞬間に体はふわっと浮く。
それは背中から翼が生えたとかでは勿論なく、階段を踏み外してしまったからだった。
「ああ!」
叫び声と共に、階段から滑り落ちてしまった。
幸い五段ぐらいの高さだったから大したケガはなかったけど、問題は周辺に散らばってしまったノート。
私の物ではない為やってしまったと思い、込み上げてくる痛みに耐えながら拾おうとした。その時。
「大丈夫!」
階段を駆け上がりケガの有無を確認してくれたのは、やはり麗華だった。
「頭打ってないから大丈夫だよ」
「でも、足から血出てるじゃない!」
「平気だから」
ヒリヒリ痛むのを我慢しながらノートを拾い始めると、麗華は黙々と拾ってくれた。
「ありがとう」
集めてくれたノートを受け取ろうとすると、逆に私が集めたノートをヒョイと持ってくれる。
「え?」
「保健室、行った方が良いよ。大丈夫、職員室でしょ? 他のクラスに習って置いてくるから」
スタスタと歩いて行くその背中に「ありがとう」と告げると、振り返らず手を振ってくれた。