ピリリリリ。ピリリリリ。
「え?」
切望した音に、私の脳内はしっかり感知する。
スマホの着信音は引き出しからではなく、私のスクールカバンから鳴り響いていた。
「あれ?」
カバンを開けると中より光る物が目に入り、それは教科書の中に挟まっているだけだった。
焦っていたから、冷静に探せていなかったのだろう。
「はぁ……。何してるの、私……」
自分のバカさ加減に呆れながら、着信に対応しようとすると切れてしまう電話。
しかしメッセージアプリからではなく、普通電話なんて。珍しいと思いながら着信履歴を見ると、それは。
「非通知……?」
その見慣れない表示に、私の心拍数はより向上していた。
少しの気味悪さと、しかしその一方で助けられたのだと思った私は、今度はスマホをカバンのポケットに入れ、床に座っていた為、スカートをポンポンと叩く。
そこでやっと思い出す。後ろの席には麗華が居たことを。
私の異様な行動にドン引きだろうと、恐る恐るそちらに目をやると誰も居なかった。
あ……。
避けられた。
そっか。そうだよね。
私はカバンを肩に掛け、教室を飛び出す。
何ショックとか受けているの私?
麗華がそうなるのは当然で、そうさせたのは自分じゃない?
なのに、どうして傷付いているの?
階段を降りて行くと、すれ違うのは部活に勤しむ生徒達。
みんな楽しそうで、キラキラ輝いていて、自分のしたいことに突き進んでいる。
私は何がしたいのだろう? みんなみたいに推し活もSNSもしたくないし、好きなのは本だけ。
でもそれもコソコソとしていて、なんの輝きもない。
どうして? どうして隠しているの? 別に変じゃないし、一般的だよね?
別に恥ずかしいことでもないのに、どうして?
私も麗華みたいに堂々と本を読みたい。
自分の好きなことを貫きたい。
……でもそうしたら、私は中学の頃の私に戻ってしまう。
私を見て、クスクスと笑うクラスメイト。
先生から、「私がクラスに馴染めていない」と話を聞き、泣くお母さん。
「友達はいないといけないの」
「普通は友達と一緒にいるものなの」
「それが出来ないあなたは変わっている」
それがいつもの口癖だった。
そうだ。そうだよね。
みんなと仲良くしないと。
そうすることが普通なのだから。
みんなが好きなものが私も好き。
そう思い、私はみんなに合流しようと走り出す。
すると靴箱より聞き慣れた声がして、もしかして私を待ってくれていたのではと、声をかけようとする。
「これからレイのグッズ買いに行かない?」
「いいね!」
雨の日は基本出掛けないが、どうやらレイの話しで盛り上がったようだ。
その声に反射的に隠れてしまったけど、これからはみんなと一緒に推し活をすると決めたばかり。
もう本なんて。麗華なんて。
そう思い、今度こそみんなに声をかけようとした。
「あ、文はどうする?」
やっぱり気にかけてくれているんだと思ったけど、返って来た言葉は違った。
「えー。別にいいよね? なんかノリ違うし!」
その言葉に、私の心臓はドクンと鳴り響く。
「あー、分かる! 私はアンタらと違うっていうオーラ出してきてるよねー!」
「お高くとまってて感じ悪いし! 私らのことバカにしているんじゃないの?」
「えー。って言うか、あれ絶対高校デビューだよね? だから、わざわざ遠くの高校選んで中学の子がいないようにしたんじゃないの?」
「それだー!」
その後も、私が溶けたパフェを一人で食べてて惨めだとか、話がつまらないとか、悪口は止まらなかった。
「それよりレイのグッズ買いに行こ!」
その声と共に、靴箱からローファーを出すような音が聞こえ、声は雨音に消えていった。
……隠れなければ良かった。そしたらこんな本音聞かなくて良かったんだから。
違うか。隠れたから聞いてしまったんだ。
レイのグッズ買いに行きたくない。一緒に帰りたくないと咄嗟に思ったから。
みんなが言っている通りだった。