十月上旬。
 夏の暑さがなくなり空が少しずつ遠くなる頃、麗華は完全に孤立してしまった。
 初めはあの目を惹く美貌により熱い視線を寄せられていたが、推しやSNSなどの流行りのコンテンツについて話せず。また、休み時間に文庫本を取り出して一人読みふける姿に周りは引いてしまい、麗華に寄りつくクラスメイトは誰も居なくなってしまった。

 だけど私はその状況をただ眺めるだけで、話しかけたりグループに入ってもらおうとみんなに呼びかけることはしなかった。
 何故か? その理由は単純で、一緒に居ると自分も同類の陰キャだと思われるから。

 どうしよう。どうしたら良い?
 一度ついたイメージは払拭出来ない。
 クラスは持ち上がりだから、三年の卒業までメンバーは同じだと確定している。
 だからこのままでは、麗華は一人で過ごすことになるだろう。
 だから私は。だけど私は……。

「あ、ごめん。先行ってて」
 移動教室の途中、ノートを忘れたと気付いた私は二年一組の教室に戻る。
 するとそこには黒髪のストレートヘアを耳にかけ、本を両手に広げる美しい横顔。
 私が教室に戻って来たのにも気付かないほどの熱中ぶりだった。
 だから私はそっと引き出しからノートを取り出そうとするけど。
 ガサガサガサ。
 音を立てて、中の物を全て落としてしまう。
 鈍臭い自分を呪いながら落ちた物を拾うと、感じる視線。
 顔を上げると、麗華がこっちを見ていた。
 しかし私は話しかけることなく、教室を飛び出していく。
 もうやだ、こんなの。
 頭の中がぐちゃぐちゃな私は、ただ廊下を走って行った。