え? 麗華がどうして?
私は喜びより、動揺の方が強く働いていた。
本が好きで早口で熱弁する。
それが本当の私だと周りに知られたら、絶対にドン引きされる。どうしよう。
私が狼狽えているとショートホームルームは終わり、周りが麗華に熱い視線を送る中、それに反応することなくこっちに向かって歩いて来た。
「驚いた? 転校先がまさか文の学校だなんて思わなかったよ! 昨日学校名聞いて、もうびっくりして! そういえば転校先言ってなかったなーって。だから今日、目の前に現れて驚かせようと思ってたの!」
いつもと同じく、気取らない態度で口を大きく開けて笑う麗華。
美人なことに鼻をかけず、周りの羨望の眼差しを気にもしないその態度。
だけど。いや、だからこそ私の反応は。
「あ、うん」
だった。
「え?」
私の態度に開いていた口は閉じ、細めていた目は丸くなっていく。
「文。知り合い?」
その声がする方を見ると、友達三人。
私達を奇怪な目で凝視してきていた。
「え、あ、うん」
思わず目が泳いでしまう。
どうしよう。昨日、誘いを断った理由に気付かれてしまったら。
私の体は震え、心臓はバクンバクンと音を鳴らす。
「どこで知り合ったの?」
「あ。えっと」
口を閉ざしてしまった私の代わりに、口を開いてくれたのは麗華だった。
「ううん。道に迷ってた所を助けてもらって、少し世間話しただけかな? 一昨日は、ありがとう」
「う、うん」
咄嗟の機転で、私を助けてくれた。
こんな嫌な私を。
「へぇー、そうなんだ。私達、あのアイドルのレイ推しなんだけど西条さんは?」
「あー、ごめんね。興味ないかな」
莉乃の問いに、軽く否定する麗華。
「SNSは? 私、こうゆうのあげてるんだ」
紗枝は自身のSNSのアカウントを見せると、麗華は「綺麗な写真だね」とは褒めるけどそれ以上の反応は示さなかった。
その態度に、私は一人オロオロとしてしまう。転校初日に、これはまずいって。
「西条さんも一緒にやらない?」
三人の声に、お願い頷いてとひたすらに願ったが。
「ごめんねー。私は本にしか興味なくてー」
苦笑いを浮かべながらそう言い切る姿に、私の心はヒリついた。
「本?」
想定しない回答に、三人が軽く引いていると感じ取れる。
「うん」
「電子じゃなくて?」
「うーん。紙が好きなんだよねー」
「そう……」
明らかに引き攣った表情を見せられるが、麗華はニッコリ笑い返し、「荷物を片付けしてくるから、ごめんね」と自席に戻って行く。
それ以降、麗華からの連絡はなくなり、私からもしなくなった。
次会ったら互いのことを話す。
その約束が守られることはなかった。