「文? 昨日、どうして来れなかったの?」
「ごめん。宿題ヤバくてー」
嘘に罪悪感を持ちつつ、今日からは本が好きな私を封印しないといけない。
「普通の高校生」でいないといけないのだから。
「今日は午前授業だし、夏休み明けを演出する映え写真を撮りに行かない?」
「いいね!」
「うん、行こう!」
無理に笑い、口角を上げる。
昨日までのキラキラと輝いていた夏休みとの落差があまりにも大きく、胸が締め付けられる思いだったけど私は自分に言い聞かせる。
いつもの日常に戻っただけ。あれは夢の時間だった。
そう、何度も。
「皆、席に着けー」
担任の川越先生の声で席に座ると、廊下には一つの影。
「やっぱり転校生じゃない?」
その姿にクラスは湧き立つ。
一番後ろの窓際に新たな席が用意されており、朝から転校生が来るのではとクラス中で騒いでいたが、まさか本当だったとは。
まあ、私には関係ない。
だって、誰が来たって分かり合える人なんていないのだから。
でもそれが、もしかして麗華だったら?
そう言えば転校先を聞いていなかったな。
いやいやいや、そんな偶然ある訳ない。
東京に高校なんて、いくつあると思っているの?
そんなの小説の世界だけ。
そう思い転校生に目をやると、入室してくる一人の高校生。
ストレートの黒髪に整った目鼻立ち、透き通った肌。
一つボタンを開けたカッターシャツに赤いリボン、紺色で膝上丈のスカートから伸びる足は細くて長い。
大人びた声や仕草をし、大人の魅力を持ち合わせた女性。
「西条 麗華です」
同じ教室に、私に笑いかける麗華が居た。