"少女"が家族を失ったのは、十三の春だった。
あれはまだ父親が巫術師一門・宇賀神家の当主で、愛娘として大切に大切にされていた頃だ。
巫術師とは、異形の種"妖魔"を退ける力をもつ者の総称であり、父親は数多くある分家を統制する長だった。
また、四大妖怪をその身に封印し力を宿した"あやかし憑き領主"の心身を守り、封印の管理もおこなう重要な役目であった。
だが、今から七年前のこと。父親は過ちを犯した。
当主の身でありながら暴走する妖魔を前にしっぽを巻いて逃げ出し、それによって多くの犠牲者が出たのである。
"少女"の父親は裏切り者として憎まれ、妖魔の暴走に巻き込まれて亡くなった母、兄も同じように汚名を着せられた。
そう、"少女"は……その一連の事件が、不名誉な叱責がすべて仕組まれたものだと疑わなかった。
誰よりも民の平穏を案じ、なによりも使命に誇りをもっていた父が逃げ出すわけがないと、そう信じていたから。
「うつむいていては気が濁ってしまうわ。前を、向かないと」
どんなに理不尽な仕打ちを受けようと、自分の名前すら剥奪されようとも。
"少女"は今も孤独の中、亡き家族の謂れのない罪を背負ってひとり懸命に生きている。