ばあちゃんの葬儀には、遠方に住んでいる親戚がみな参列した。突然のことだと思っていたのは自分だけだったらしい。

「紡、今まで隠しといてごめんな……ばあちゃんは、大腸がんやってん」

 涙の滲む声でそう教えてくれた父さんは、俺の背中をそっとさすった。信じられない。縁側で、ばあちゃんに糸を持ってもらった時のことを思い出す。あの時のばあちゃんは、とてもがん患者には見えなかった。でもあの時すでにばあちゃんの病気は取り返しのつかないところまで進行しており、緩和ケアを受けている最中だったのだと知った。俺に悟られないように、父さんが一時帰宅したばあちゃんを縁側に座らせて、最後かもしれないと思って話をさせたのだと言う。

「ばあちゃんは最後まで紡のこと気にしとってん。紡が、人生に迷っとるような気がするって言うて」

「そんなこと、ないって……」

 どうしてばあちゃんは、自分の病気のことよりも、俺の将来の心配なんかしていたんだろう。俺はばあちゃんに、悩みがあるなどと相談をしたこともないのに。このまま狙っている国立大学に進学して、それなりに有名な会社に就職して、時期が来れば「つむぎ」を継ぐのかもしれない——それでいいのだ。でも、心のどこかで、本当にその決まりきったレールの上を歩む人生でいいのかと思っていたのは事実だ。ばあちゃんは、そんな俺の心を見透かしていたのかもしれない。

「ばあちゃん……」

 遺影に向かって、掠れた声でつぶやいた声は、思っていた以上に震えていた。今まで普通に会うことができていたばあちゃんと、もう二度と会えないのだということを実感して、どうしようもなく胸が疼いた。

「この糸、なんやってん……」

 ばあちゃんが手にした時、透明になった糸が、今はいつも通り何色もの煌めきを湛えているように見える。

「透明になってから、ばあちゃんが亡くなった」

 俺は、絃葉とばあちゃんが持った時だけ透き通った糸のことを考えて、ふとある考えが頭をよぎった。
 絃葉は重病患者として病院に入院している。その事実と、今回のばあちゃんの死を照らし合わせてみると、一つの真実が見えるような気がした。

「そんな、わけないやろ」

 自分でした想像を打ち消すように、頭を横に振る。
 その日の夜は、ばあちゃんが死んでしまったことと、糸のことを考えて眠れなかった。ばあちゃんを想って寂しくなって声を押し殺して泣いた。でもそれと同じくらい、絃葉のことが頭にちらついている。
 絃葉。
 きみは一体、なんの病気なん?
 胸に渦巻く疑問が、夜の闇に溶けて、俺を孤独な場所へと連れて行っていくような気がした。