ひとつ、ふたつ、みっつ。
 窓の外で、はらはらと落ちていく薄茶色の葉っぱの数を、無心で数える。ひとつ。一枚葉が落ちるごとに、時計の秒針が、5秒進んだ。
私の残り少ない命の気配が、同じ時間だけ失われる。この5秒は、誰かにとってとても短く、取るに足らない時間。それなのに、私にとっての5秒間は、あまりにも長い。まるで、一人だけちがう時間軸を生きる、おとぎの国の少女みたいだ。

「……て、そんなメルヘンな話じゃないね」

 明日、手術なんだから。
 もう何度目か分からない手術の前日はいつも、明日には本当に私の人生の時間が0になってしまうのではないかという不安に駆られる。
 この恐怖は、私を底なしの沼に沈んでいくみたいな感覚にさせる。実際、そんな沼に落ちたことなんてないけれど、もがいても、もがいても地上に出られない恐怖と不安が、私をがんじがらめにする。
 コンコンと、病室の扉がノックされる音がして、私は顔の筋肉をきゅっと引き締めた。そして、ふう、と胸に手を当てて精一杯の笑みを浮かべる。

「お母さん、やっほー」

 母が来る時には、私は底なし沼なんて簡単に泳いで上に上がれるかのように、自信満々な顔をつくる。あなたはどうしていつも、そんなに呑気なの? と母にはいつも呆れられるほど上手く仮面をかぶるのだ。
 だって、だってね。お母さん。
 そうでもしなければ、いつ途切れてしまうか分からないこの命と、まっすぐに向き合わなくちゃいけなくなるじゃない。
 そうしたら私はきっと、私でいられなくなる。
 落ちていく枯れた枝の葉っぱみたいに、私の意識ももうすぐ消えてしまうのかなって、怖くてたまらないんだよ——……。