それから僕達はもっと一緒にいるようになった。楽しいことを、やりたいことを共有して、この天国を楽しみまくった。

 それでも、残酷に時間は過ぎて行く。街ゆく景色が紅葉をし始める。

「みーずき!今日は紅葉狩りに行きましょ!」
「はいはい」
「ちょっと!ちゃんと聞いてるの!?相変わらずなんだから」
「うーん、だって一葉と一緒ならもうどこだって楽しいし」
「っ!私の彼氏は、相変わらず格好良いわね……!」
「僕の彼女は相変わらず可愛いけど」

 歩くときに自然に手を繋ぐようになった。この天国がさらに幸せに満たされて行く。
 それでも、病状は余命が近づくにつれ、当たり前のように悪化していく。

「瑞樹くん、そろそろ入院して欲しい」

 山川先生はある日、診察室でそう告げた。

「分かりました」と、僕はすぐに了承した。

「こんなことを私が言うのもおかしいが、随分あっさりしているね。無理をしていないかい?入院はして欲しいが、瑞樹くんに気持ちを吐き出すのを我慢して欲しいとは思わない」

 僕は山川先生と目を合わせ、はっきりと告げる。

「本当に大丈夫です。入院してもやりたいことを探して、好きなことをいっぱいするので。それに、今は少しでも長くこの世界にいたい」

 もう死んでるのに、この天国が名残り惜しいなんて馬鹿げてるかな?それでも病気に疲れて、毎日が楽しくなくて、死のうとしていた前よりずっと良いはずだ。もう僕は、この天国の楽しさを知っている。
 山川先生は、僕の言葉に真剣な目を向けた。

「医師として、全力と尽くすことを約束する」

 一葉に入院することを告げると、一葉は一瞬固まった後、すぐに笑顔を作る。

「じゃあ、毎日会いに行くわ!したいことがあったら言って頂戴。入院しても、天国を楽しみ続けられるかは私達次第よ!」
「ああ。一葉、ありがとう」
「良いのよ!私が勝手にこの天国を楽しんでいるだけだもの!」
「あ、でも、入院までに一つだけ心残りがあった」
「!?すぐに言って頂戴!今すぐ叶えましょ!」

 僕は一葉の頬に手を当てて、顔をこちらを向けさせる。一葉はすぐに僕のしたいことが分かったようで、目を瞑る。僕は一葉にそっと優しくキスをした。

「一葉、大好きだよ」

 一葉は顔を真っ赤にして照れていたが、すぐに首を振り、僕に思いきり抱きついた。あまりの勢いに僕は少しだけバランスを崩す。

「うおっ!」
「ふふっ、私も大好きよ!大大大好き!ねぇ、もう一回キスして!」
「急に大胆だなぁ」
「あら、瑞樹が言ったのよ?天国で照れていたら勿体ないわ!」

 僕はもう一度、一葉にキスをする。キスをした後に少しだけ顔を赤くして笑う一葉が可愛くて、僕は一葉をぎゅっと抱きしめた。

「一葉」
「何?」
「僕と付き合って幸せ……?」

 僕は本当に一葉に無理をさせていない?いや、無理なんかさせてるに決まってる。それでも、そう言葉が溢れてしまった僕は最低だ。

「何を言っているの?私はこの天国でしたいことしかしないわよ!楽しいことしかしない。だから、心配なら何度でも言うわ。私は幸せでしかないっ!」

 どうして、君は当たり前のように僕に優しさをくれるの。僕は君に救われてばかりいる。僕は優しさを返せているだろうか。それでも、僕はもう一度だけ「大好きだよ」と言うことしか出来なかった。