桜並木に着き、どこで花見をするか場所を探し始める。

「あそこの場所がいいんじゃない?桜がよく見えそう!」
「あ、ちょっと待って」
「うん?」

 僕は一葉の髪に付いている桜の花びらを取った。

「うん、取れた。……一葉?」

 一葉の顔が少しだけ赤くなっている。

「あはは、一葉、可愛いね」
「からかわないで!?急に触れるからびっくりしたじゃない!」
「からかってないけど。一葉が可愛いのは事実だし」
「っ!相変わらず、なんでも恥ずかしがらずに言えるのが、瑞樹の魅力よね」
「天国で恥ずかしがってても後悔するだけだから」

 ねぇ、一葉。それでも、素直に僕は言えない。本当は、一葉に惹かれ始めていることを。
 ここは、天国。僕と一葉が作った天国という時間。好きなことを沢山する場所。それでも一葉を残して、僕はこの世界の天国から出て行ってしまう。本当の天国へ向かうために。だから、一葉には言わない。
 きっと一葉は怒るだろう。

「好きなことをして、やりたいことをして、言いたいことを言うのが天国でしょ!?」って。

 うん、だから僕は好きなことをする。好きな子を悲しませたくなんてない。だから、心の中でそっと唱える。

「大好きだよ。ごめんね」って。

「おーい!瑞樹!早く、こっちにおいでー!」

 一葉が桜のよく見える場所を見つけて、手を振っている。

「今行く!ごめん!」

 一葉の近くに行くと、一葉が少しだけ頬を膨らませている。

「私、『ごめん』はあんまり好きじゃないわ。謝るのは、本当に悪いことをした時だけでいいのよ。私は、『ありがとう』の方が好き」

 僕はどれだけ一葉に救われればいいのだろう。

「桜が綺麗に見える場所を見つけてくれてありがとう」
「うん!」

 一葉が嬉しそうに笑った。だから僕はもう一度、心の中で唱えるんだ。

「大好きだよ。ありがとう」って。