その後、僕達は日が暮れるまで遊んだ。

「はぁ、疲れたー!でも、とっても楽しかった。瑞樹、ありがとう!」
「お礼を言うのは、僕の方なんだけど。今日は僕に付き合わせちゃったから、次は一葉のしたいことに付き合うよ」
「いいの?」
「当たり前じゃん。一葉も今日死んだんでしょ?じゃあ、一葉も天国を楽しまないと」
「そうね……!うーん、何にしようかなぁ」
「したいことないの?」
「まさか!したいことがあり過ぎて、どれからしようか悩んでるの!」
「一番したいことからじゃない?」
「一番が沢山あるってことよ」

 他愛もない会話をして、好きなことをして、楽しめるだけ楽しんで、こんなにも笑顔で過ごしたのはいつぶりだろう。

「一葉」
「うん?」
「本当にありがとう」

 僕がお礼を言うと、一葉は嬉しそうに笑った。

「私も楽しかったからいいの!」

 そう言って笑った一葉は、とても眩しかった。

「そろそろ帰ろうか。送るよ」
「……!?」
「一葉?どうしたの?」
「サラッと送るよって言える辺り、イケメンだなと思って」
「日が暮れてるのに、女の子を一人で帰さないでしょ」
「ふふっ、瑞樹は優しいのね」

 帰り道を歩き始めると、一葉がじーっと僕の顔を見ていることに気づいた。

「どうしたの?」
「瑞樹はいくつなのかなと思って」
「僕は……」
「待って!当てたい!……うーん、私と同じくらいに見えるから、高校一年生くらい?いや、二年生?」
「正解は一年生でした。一葉も同い年?」
「うん、高校一年生。近くの浅咲高校に通ってる」
「僕は、日乃下高校」
「瑞樹、頭良いのね。進学校じゃない」
「僕は全然だよ。それに最近は行けてないし」

 そう言ってから、僕は気づいた。一葉は僕が病気であることを知らない。それなのに急に高校に行っていないと言えば、困らせてしまうだろう。僕はそっと一葉に視線を向ける。

「ごめん、今のは……」
「そうよね!私も、学食が美味しくなかったら行ってないわ!」

 一葉がうんうんと頷いている。一葉はさっきも思ったが、聞かれたくないことに深入りしないでいてくれる。それがどれほど優しいことかはよく分かっているつもりだった。
 そんなことを話しているうちに、一葉の家の近くまで着いた。

「瑞樹、送ってくれてありがとう。じゃあ、またね……って、連絡先交換してないじゃない!」

 一葉が慌てて、携帯を取り出す。

「もうっ!瑞樹も聞いてくれればいいのに!」
「いや、知らないやつに急に聞かれるのも怖いと思って……」
「何言ってるの!私たちはもう天国仲間!それに、次は私のしたいことに付き合ってくれるんでしょ!?」

 一葉は連絡先を交換した後、僕に手を振ってから帰って行く。しかし、家に入る直前、僕の方を向いた。

「私もしたいこと考えておくから、瑞樹もしたいことだけ考えるのよ!他のことは考えちゃダメだから!」

 そうはっきりと言ってから、一葉は家に入って行った。一葉は最後まで俺を気遣ってくれていたのだろう。俺はその場で、手を思いっきり上にして、背筋を伸ばした。

「よし!帰ったら、したいことでも考えよ」

 これからの時間は、したいことだけをするんだ。だって、僕はもう死んだんだから。今日から、この世界は天国に変わったのだから。