僕に自分のお願いを聞き入れてもらった夏海は、やっぱり嬉しそうに頬を緩める。
「ありがとう。あ、それでさっきの質問ね。それは単に、いきなりきみが教室に現れたから。この世界に新しい住人がやって来たら、基本的にこのクラスに配置されるから。みんな、きみと同じように突然現れて、自己紹介をして、よろしくねーって言って、仲間になるの」
自分の両手を自分で握って、握手、というような動作をしてみせる夏海。
なるほど、本当に単純な理由だ。
今僕がここに現れたことが、彼女たちにとっても——元々この世界にいた住人たちにとっても、新しい仲間が現れたという事実になるんだ。
「そっか。良く分かった。すっきりしたよ」
見慣れない教室や女子高生の彼女の存在に、実際はまだ頭が混乱していたのだが、彼女の明るい性格によって幾分か気分は和らいでいた。
ふと、案内人が言っていた言葉を思い出す。
この世界には二種類の人間が存在している、と。
僕は、白い美しい肌をした彼女の顔をちらりと見た。
相変わらず彼女は俺の顔を見て嬉しそうに微笑んでいる。新しい友達ができたことがそんなに嬉しいんだろうか。僕のように、陰気な性格を思わせるようなところは一つもない。彼女が自ら死を選ぶなんて、想像がつかなかった。
でも彼女とはまだ出会って数分しか経っていない。僕が知らないだけで、彼女にも他人には計り知れない心の闇があるのかもしれない。出会ったばかりの彼女には間違っても聞けないことだけど。
「どうしたの、春樹くん」
「え、いや——なんでもない。それより、僕には“くん”付けなんだね」
「うん! いいでしょ。きみって、青春映画の主人公みたいな顔してるからさあ。丁重に扱いたくなるの」
そう言って彼女はおかしそうにふふふ、と笑っていた。
彼女の言うことが僕には半分も理解できなかったけれど、僕との会話でこれだけ表情をコロコロ変えて楽しそうにしている彼女を見ていると、心洗われていくような心地がした。
「おはよう夏海! って、あれ、新入り?」
教室の扉が独特な音を立てて開かれ、僕は反射的に入り口の方に視線を合わせた。
そこに立っていたのは茶髪でツンツン頭をした男子と、栗色の髪を肩のところで切りそろえたショートカットの女子だった。
「あ、龍介と理沙ちゃん。おはようっ」
夏海がぱっと後ろを振り返り、教室に入って来た男女に手を振った。
「えっと……」
近づいてくる二人に、僕がなんと挨拶をしたら良いのか迷っていると、夏海が「この人、新入りの新米なの!」と明るい声で言い放った。
「し、新米ってなんだ」
「えーなんかほら、きみってほくほくしてあったかい感じがするじゃん」
どういうことだろう、と僕が頭を捻らせていると、ショートカットの女子がクククとお腹を抱えて笑った。
「もう夏海ったら、また変なこと言って新人くんを困らせてる」
「変なことじゃないもん。私の目にはそう見えるもん」
ぷっくりと頬を膨らませる夏海に、「そおかそおか」と頷きながら夏海の頭を撫でる彼女。でもやっぱり顔は笑っている。二人の会話からして、かなり仲が良いということはすぐに分かった。
「んで、結局名前はなんだ?」
ツンツン頭の男子の方が、僕にぐいっと顔を寄せてくる。よく見ると右目の下に泣きぼくろがある。ひゅんと伸びたまつ毛はとても長くて、顔を近づけると触れてしまいそうだった。とても色っぽい顔をしている——なんて、男の僕が思うぐらい、彼は格好良かった。
「真田春樹。彼女に紹介された通り、今日からこの世界に来た新人です。よろしくお願いします」
初対面だからひとまず丁寧にお辞儀をして答えたのだが、ツンツン頭は「かってえなあ!」と僕の頭をガシガシ撫でた。
「そんな畏まんなくていいって。俺たち全員同級生なんだから。あ、俺は龍介。で、こっちのおっかない女は理沙。よろしく!」
「ちょっと、おっかないって何よ!」
「……ってー! ほら、こういうところが怖えって言ってんだ」
理沙が龍介の頭をポカンと殴り、龍介は大袈裟に痛そうに顔を歪めてみせる。でも、理沙の殴り方には愛があった。理沙はコホン、と咳払いをすると、僕に向き直って言った。
「……藍沢理沙です。今コイツが変な紹介をしたけど、私はいたって普通だから! 気にしないでね、ほんと」
手を擦り合わせて小さく頭を下げる理沙は、なんだかしおらしくて好感が持てた。
「ありがとう。あ、それでさっきの質問ね。それは単に、いきなりきみが教室に現れたから。この世界に新しい住人がやって来たら、基本的にこのクラスに配置されるから。みんな、きみと同じように突然現れて、自己紹介をして、よろしくねーって言って、仲間になるの」
自分の両手を自分で握って、握手、というような動作をしてみせる夏海。
なるほど、本当に単純な理由だ。
今僕がここに現れたことが、彼女たちにとっても——元々この世界にいた住人たちにとっても、新しい仲間が現れたという事実になるんだ。
「そっか。良く分かった。すっきりしたよ」
見慣れない教室や女子高生の彼女の存在に、実際はまだ頭が混乱していたのだが、彼女の明るい性格によって幾分か気分は和らいでいた。
ふと、案内人が言っていた言葉を思い出す。
この世界には二種類の人間が存在している、と。
僕は、白い美しい肌をした彼女の顔をちらりと見た。
相変わらず彼女は俺の顔を見て嬉しそうに微笑んでいる。新しい友達ができたことがそんなに嬉しいんだろうか。僕のように、陰気な性格を思わせるようなところは一つもない。彼女が自ら死を選ぶなんて、想像がつかなかった。
でも彼女とはまだ出会って数分しか経っていない。僕が知らないだけで、彼女にも他人には計り知れない心の闇があるのかもしれない。出会ったばかりの彼女には間違っても聞けないことだけど。
「どうしたの、春樹くん」
「え、いや——なんでもない。それより、僕には“くん”付けなんだね」
「うん! いいでしょ。きみって、青春映画の主人公みたいな顔してるからさあ。丁重に扱いたくなるの」
そう言って彼女はおかしそうにふふふ、と笑っていた。
彼女の言うことが僕には半分も理解できなかったけれど、僕との会話でこれだけ表情をコロコロ変えて楽しそうにしている彼女を見ていると、心洗われていくような心地がした。
「おはよう夏海! って、あれ、新入り?」
教室の扉が独特な音を立てて開かれ、僕は反射的に入り口の方に視線を合わせた。
そこに立っていたのは茶髪でツンツン頭をした男子と、栗色の髪を肩のところで切りそろえたショートカットの女子だった。
「あ、龍介と理沙ちゃん。おはようっ」
夏海がぱっと後ろを振り返り、教室に入って来た男女に手を振った。
「えっと……」
近づいてくる二人に、僕がなんと挨拶をしたら良いのか迷っていると、夏海が「この人、新入りの新米なの!」と明るい声で言い放った。
「し、新米ってなんだ」
「えーなんかほら、きみってほくほくしてあったかい感じがするじゃん」
どういうことだろう、と僕が頭を捻らせていると、ショートカットの女子がクククとお腹を抱えて笑った。
「もう夏海ったら、また変なこと言って新人くんを困らせてる」
「変なことじゃないもん。私の目にはそう見えるもん」
ぷっくりと頬を膨らませる夏海に、「そおかそおか」と頷きながら夏海の頭を撫でる彼女。でもやっぱり顔は笑っている。二人の会話からして、かなり仲が良いということはすぐに分かった。
「んで、結局名前はなんだ?」
ツンツン頭の男子の方が、僕にぐいっと顔を寄せてくる。よく見ると右目の下に泣きぼくろがある。ひゅんと伸びたまつ毛はとても長くて、顔を近づけると触れてしまいそうだった。とても色っぽい顔をしている——なんて、男の僕が思うぐらい、彼は格好良かった。
「真田春樹。彼女に紹介された通り、今日からこの世界に来た新人です。よろしくお願いします」
初対面だからひとまず丁寧にお辞儀をして答えたのだが、ツンツン頭は「かってえなあ!」と僕の頭をガシガシ撫でた。
「そんな畏まんなくていいって。俺たち全員同級生なんだから。あ、俺は龍介。で、こっちのおっかない女は理沙。よろしく!」
「ちょっと、おっかないって何よ!」
「……ってー! ほら、こういうところが怖えって言ってんだ」
理沙が龍介の頭をポカンと殴り、龍介は大袈裟に痛そうに顔を歪めてみせる。でも、理沙の殴り方には愛があった。理沙はコホン、と咳払いをすると、僕に向き直って言った。
「……藍沢理沙です。今コイツが変な紹介をしたけど、私はいたって普通だから! 気にしないでね、ほんと」
手を擦り合わせて小さく頭を下げる理沙は、なんだかしおらしくて好感が持てた。