それからの僕の凋落ぶりはすさまじかった。
 学校で、クラスメイトからハブられるようになったのは言うまでもない。
 僕に対し不満を持っていた生徒たちが、あの事件を皮切りに、遠慮をしなくなったと言えば分かりやすいかもしれない。
 机に落書きをされるのは序の口で、教科書が水浸しになり使えなくなったもの、まだ耐えられた。一番堪えたのは、クラスの中で、誰一人として僕の味方をしてくれる人がいなかったこと。先生さえも、このいじめには気づかないふりをしていた。 
 今まで、友人関係を築くことや、勉強をすることを怠った罰が当たったんだ。
 そう思えば納得できるはずなのに、自分の身に降りかかる不幸は、想像以上につらいものだった。
 LIVE動画はあらゆるSNSで拡散され、僕のファンを筆頭にさまざまなコメントが寄せられた。もちろん、僕を擁護し、動画撮影をしたクラスメイトを非難する声も上がったが、学生の本分を放棄して歌手活動だけに専念する僕のスタンスを、受け入れられないというファンの不満が爆発していた。
 僕はネット社会で一気に吊し上げられた。SNSには誹謗中傷の言葉が蔓延し、僕はスマホを直視できなくなった。テレビ局の人間が自宅まで押し寄せて、僕から事情を聞き出そうと迫りくる日々。
 両親は僕の心配をするよりも、「ほら、言わんこっちゃない」と勉強をしなかった僕を蔑むような目で見つめた。実際はそうじゃなかったのかもしれないけれど、僕の歌手活動をよく思っていなかった両親のことだ。突然平穏な日々が壊されたことで、僕を罵りたくもなっただろう。
 僕は、その一つ一つの出来事に、心を壊していった。
 SNSは怖くて開きたくないと思うのに、慰めの言葉を探して、無意識に見てしまっていた。その度にまた目に飛び込んでくるはっきりとした悪意に、僕は足元から引き摺り込まれそうな感覚に陥った。
 ひたすら自分の部屋に引きこもり、世間がこの話に飽きるのを待った。
 けれど、予想に反して僕への誹謗中傷は長引き、僕は体重が十キログラムも減り、頬はこけ、身体は針金のように細くなった。もちろん僕は、活動を休止した。
『SEASON』のドラマーから連絡が来たのは、例の動画が拡散されて一週間が経った頃だ。すぐに連絡をしなかったのは、しばらく僕をそっとしておきたいという気遣いだったらしい。

「俺たちの活動も、辞めなくちゃいけなくなった」

 彼は、僕を責めるでもなく、動画の善悪を述べるのでもなく、たった一言それだけつぶやいた。
 真っ暗な穴に、ついに足を滑らせて落ちてしまったかのような感覚に襲われた。
『SEASON』が活動休止を余儀なくされたのは、僕のせいだ。
 Harukiが活動休止しなければならないのは諦めがつくが、『SEASON』は違う。『SEASON』には僕の仲間が、共に夢を追ってくれた仲間がいる。
 そんな大切な人たちが、僕の浅はかな行動で、夢を絶たれた。
 涙は、僕の意思とは無関係に、気がつけば全身を濡らす勢いで滑り落ちていた。

 僕の命と引き換えに、『SEASON』を解放してください。
 それだけが、僕の願いです。

 遺書を机の上に置いて、僕は震える足を引きずるようにして家を出た。
 月明かりだけが夜道を美しく照らす、夏の夜のことだった。
 命を終える場所に選んだ海にたどり着いた僕は、ゆっくりと海に足を浸していく。
 どうか、この先『SEASON』のみんなが、笑顔で音楽を奏で続けられますように。
 月の光の下で、僕は今も願い続けている。