うわあああ、どうしよう!
 私ったら、春樹くんの許可も取らずに勝手に手を繋いじゃったっ。さっきから、電車の中でも心臓が鳴り止まないよ。春樹くんに自分の夢を褒められて、嬉しくてつい舞い上がって。もうすぐお別れだと思うと胸が切なくなって、咄嗟に彼の手を——。
 明日も会うっていうのに、なんて恥ずかしいことをしちゃったの……。
 でも、春樹くんはそんな私の手を振り解こうとはしなかった。優しく握り返してくれたあの感触が、私の胸を幸福でいっぱいに満たしてくれた。
 ああ、これが生きてるってことなんだなぁって、実感させてくれた。
 ちらりと、吊り革に捕まって外の景色を眺めている春樹くんの方を見た。座席が一つしか空いていなくて、春樹くんと龍介が私を座らせてくれたのだけれど、龍介は一つ前の駅で降りて行った。だから今度こそ、春樹くんと二人きりなのに、椅子に座っている私と立って外の方を向いている春樹くんの間には、大きな隔たりがあるように思われた。
 やがて電車が私の自宅の最寄駅に到着する。二人だけの時間は、あっという間に終わりを告げた。

「今日は、ありがとう……」

 私は二人で手を繋いだことばかりが頭に浮かんで、電車を降りる直前も、春樹くんの顔をまともに直視することができなかった。

「こちらこそありがとう。楽しかったよ」

 対する春樹くんは、私との一件などもう気にしていないという素振りで、にっこり笑って手を振ってくれた。大人の余裕があるみたいで、手を繋いだくらいで馬鹿みたいに動揺している自分が恥ずかしくなった。

「また明日」

 踵を返して春樹くんを視界の外へと追い出した私は、平静を装って駅の構内から速足で飛び出した。そうでもしなければ、いまだ激しく脈打つ心臓の鼓動に、耐えられる気がしなかったから。


 翌日も、翌々日も、みんなで遊びに出かけた。念願だった四人での遊園地はやっぱり最高で、どんな乗り物に乗っても、全員で仲良く喜びを分かち合った。ただ、春樹くんも理沙ちゃん同様絶叫マシーンが苦手で、ジェットコースターに並んでいる時はずっと青い顔をしていた。私は衝動的に彼の手をもう一度握りたいと思ってしまって、一人で恥ずかしくなっていた。
 今日の夏海は変だね、と理沙ちゃんが鋭いことを言ってきて、私は「そうかな!?」とわざと大袈裟に反応した。それが返って不自然だったようで、どんどんボロが出まくってしまった。
 一方春樹くんはと言うと、昨日のことはもう忘れたのか、忘れたふりをしているのか、私のように恥ずかしさで慌てるようなことはなかった。いつも通りの彼。絶叫マシーンが苦手で、げんなりしている顔が、私だけの特別な彼ではなくて、なぜだか胸が疼いた。
 ちょっとぐらい、昨日のことを思い出してくれてもいいのに——。
 無意識にそう願っている自分がいたのだ。
 
 みんなで遊び尽くしたゴールデンウィークも、一週間で終わってしまった。
 あっというまだったけれど、毎日遊んでいたからか、とても濃い思い出ができた。
 私たちは高校三年生だから、来年はもう卒業の年だ。
 とはいえ、退学しないかぎり、本当の“卒業”は訪れない。多分来年も再来年もまた、私たちは永遠に高校三年生に残り続ける。でも、この四人の中で、誰かがもし退学してしまったら、永遠に四人の日々は帰ってこないのだ。そう思うと、今の一瞬一秒を、大切にしたい。