群青色に染まる空を見ながら、四人で駅まで歩いた。前を歩く理沙と龍介が、今日のカラオケの話で盛り上がっている。二人はとても仲睦まじい姉弟みたいな関係だ。僕も、あんなふうになれるのだろうか。この先夏海たちと、何でも悩みを共有できるようなかけがえのない存在に。
 考え事をしていると、ふと自分の左手に温かい何かが触れた。
 僕は驚いて視線を左隣へと向ける。
 いつのまにかそばに来ていた夏海と、僕の視線が溶けて混ざり合った。

「あ——」

 夏海の右手が、僕の左手に触れている。夏海の頬が、薄闇の中でもほの赤く染まっていることに気づいた。僕は恥ずかしくて咄嗟に手を引っ込める。

「ご、めん」

 理沙と龍介には聞こえないぐらいの小さな声で慌てて謝る夏海。理沙と龍介が談笑する声が、僕の耳にくっきりと響く。僕は瞬間、何か大切なものを手放してしまったような気持ちになり、とっさにもう一度彼女の手を掴んだ。

「二人には、気づかれないようにしよう」

「……うん」

 僕たちはもう一度、ゆっくりと優しく手を握りなおして、お互いの体温を確かめ合っていた。大人ぶって冷静なフリをしているが、本当は僕の心臓は張り裂けそうなぐらい激しく脈打っている。普段は天真爛漫で、花が風に吹かれて踊っているかのように話す彼女も、視線を伏せて恥ずかしそうにしていた。
 い、いいのだろうか。
 このまま、夏海と手なんか繋いで。
 四人で仲良くしたい——そんな誓いを立てた後だったから、なおさら僕は迷っていた。でも、繋がれた手から伝わる夏海の温もりは、僕に忘れていた感情を思い起こさせてくれた。


 やがて駅が見えてきた頃、僕らはとっさに手を離した。時間にすれば、五分ほどの出来事だった。
 隣にいる夏海の顔に目をやると、いまだに恥ずかしそうに視線を伏せていた。こんな夏海を見るのは初めてだ。夏海はいつも、自分の喜怒哀楽を隠すことなく、天真爛漫に振る舞っているような子だったから。でも、夏海と出会ってまだ一ヶ月だ。僕の知らない彼女がいても、なんら不思議ではない。

「じゃあまた、明日ね」

 理沙がこちらを振り返って、僕たちに手を振った。
 みんな、自宅のある駅がバラバラで、特に理沙とは乗る電車も別方向だった。

「うん、また明日」

 僕は理沙に軽く手を振り、改札で理沙と別れた。龍介と夏海は途中まで同じ電車に乗るので、三人で理沙が入っていた改札とは別の改札を潜る。
 その間も、ずっと僕の心臓の鼓動は速く脈打っていた。黙りこくる僕と夏海を見て、「二人ともどうしたんだよ」と茶化す龍介の言葉が、やってきた電車のブレーキ音にかき消されていった。