【第二百五十九段】

 御前にて、人々とも、またもの仰せらるるついでなどにも、
「世の中の腹立たしう、むつかしう、片時あるべき心ちもせで、『ただ、いづちもいづちもいきもしなばや』と思ふに、ただの紙のいと白う清げなるに良き筆、白き色紙(しきし)陸奥紙(みちのくにがみ)など得つれば、こよなう慰みて、『さばれ。かくてしばしも生きてありぬべかんめり』となむ、おぼゆ。