雄介君の声にギョッとして振り向けば、隣の席からはジェダと見知らぬスーツ姿の女性が顔を出す。
「ジェダ!? と、そちらの女性は……?」
「黙っていてごめんね。実はジェダイドさんに頼まれたんだ。琴美ちゃんに出版社を紹介して欲しいって」
「初めまして。私は仙台を拠点に児童書を手掛ける出版社で編集長をしている緑屋と申します」
パンツスーツがよく似合う真面目そうな女性は、私たちの席まで来ると丁寧に名刺を渡してくれる。お礼を言って受け取ったものの、聞いたことが無い出版社だった。
「まだまだ立ち上げたばかりの小さな出版社ですが、これから大きくするつもりです。そこの桃井と一緒に」
「実は母さんに内緒でアメリカの会社を退職してね。仕事を探していたら、ここの出版社を見つけて応募したんだ。それで数ヶ月前、営業でこの街に来た際に訪れたレストランでジェダイドさんに声を掛けられて」
「声を掛けた時は、まさかコトの親戚だって知らなかったけど、でもコトの夢を応援したくてお願いしたんだ」
「私の夢……?」
「ジェダイドさんと桃井に頼まれて、貴女の作品を拝見しました。とても面白い作品を書かれていると思いました。内容は悪くありませんが、ただターゲットにする年齢層が違うような気がしました。小中学生の読者を狙って書き直してみるといいかもしれません」
「小中学生向けですか?」
「最初は弱くても、出会いや冒険を重ねて強くなった主人公に憧れるのは子供だって同じです。そこを強調するのはどうでしょうか。例えば、騎士を主人公にするとか」
「それなら俺も少しは役に立てるかな」
隣に座ったジェダが微笑みかけてくれる。
「俺はコトが小説に書くようなかっこいい騎士じゃないけれども、夢を叶える手伝いが出来るのなら、騎士だった俺のことをたくさん利用していいから」
「教えていないのに、どうして私の作品について詳しいの? あっ、もしかして……」
「更新が楽しみで毎日見ているよ。コトのブログ。ずっと恥ずかしくて言えなかったけど……」
頬を赤らめて照れたように言っているから間違いなさそう。唯一の読者さんって、ジェダだったんだ。
「でも、恋人は? 恋人と同棲するから働き始めたわけじゃないの?」
「恋人なんていないよ。ずっと心に決めた人がいるからさ。小説家の夢を叶えようと、ひたむきに走り続けている琴美っていう可愛い子がね」
「琴美って……どのコトミさん?」
「コト以外に誰がいるの? 今日だってコトに緑屋さんを紹介したくて、わざわざ仙台から来てもらったんだよ」
「そうなの!? でも、子供向けの作品は書いたことが無くて……」
これがまたとない機会というのは分かっている。それでも未知のジャンルに手を出すのは難しい。そう考えると、即答出来ない。
そんな私の気持ちを察したのか、ジェダが「大丈夫」と手を握ってくれる。
「コトなら絶対に出来るよ。今までだってどんな物語も書いてきたんだから。今回も上手くいくって」
「でも……」
「俺を信じて。お守り代わりにこれをあげるから」
そう言って、私の左手を取ると薬指に銀色の指輪を嵌めてくれる。
「これは……?」
「婚約指輪。本当は小説家としてのコトの初仕事が終わったら、告白して渡すつもりだったけど」
「こっ、婚約指輪!?」
素っ頓狂な声を上げた私に対して、ジェダは至極真面目な顔で頷く。
「ジェダ!? と、そちらの女性は……?」
「黙っていてごめんね。実はジェダイドさんに頼まれたんだ。琴美ちゃんに出版社を紹介して欲しいって」
「初めまして。私は仙台を拠点に児童書を手掛ける出版社で編集長をしている緑屋と申します」
パンツスーツがよく似合う真面目そうな女性は、私たちの席まで来ると丁寧に名刺を渡してくれる。お礼を言って受け取ったものの、聞いたことが無い出版社だった。
「まだまだ立ち上げたばかりの小さな出版社ですが、これから大きくするつもりです。そこの桃井と一緒に」
「実は母さんに内緒でアメリカの会社を退職してね。仕事を探していたら、ここの出版社を見つけて応募したんだ。それで数ヶ月前、営業でこの街に来た際に訪れたレストランでジェダイドさんに声を掛けられて」
「声を掛けた時は、まさかコトの親戚だって知らなかったけど、でもコトの夢を応援したくてお願いしたんだ」
「私の夢……?」
「ジェダイドさんと桃井に頼まれて、貴女の作品を拝見しました。とても面白い作品を書かれていると思いました。内容は悪くありませんが、ただターゲットにする年齢層が違うような気がしました。小中学生の読者を狙って書き直してみるといいかもしれません」
「小中学生向けですか?」
「最初は弱くても、出会いや冒険を重ねて強くなった主人公に憧れるのは子供だって同じです。そこを強調するのはどうでしょうか。例えば、騎士を主人公にするとか」
「それなら俺も少しは役に立てるかな」
隣に座ったジェダが微笑みかけてくれる。
「俺はコトが小説に書くようなかっこいい騎士じゃないけれども、夢を叶える手伝いが出来るのなら、騎士だった俺のことをたくさん利用していいから」
「教えていないのに、どうして私の作品について詳しいの? あっ、もしかして……」
「更新が楽しみで毎日見ているよ。コトのブログ。ずっと恥ずかしくて言えなかったけど……」
頬を赤らめて照れたように言っているから間違いなさそう。唯一の読者さんって、ジェダだったんだ。
「でも、恋人は? 恋人と同棲するから働き始めたわけじゃないの?」
「恋人なんていないよ。ずっと心に決めた人がいるからさ。小説家の夢を叶えようと、ひたむきに走り続けている琴美っていう可愛い子がね」
「琴美って……どのコトミさん?」
「コト以外に誰がいるの? 今日だってコトに緑屋さんを紹介したくて、わざわざ仙台から来てもらったんだよ」
「そうなの!? でも、子供向けの作品は書いたことが無くて……」
これがまたとない機会というのは分かっている。それでも未知のジャンルに手を出すのは難しい。そう考えると、即答出来ない。
そんな私の気持ちを察したのか、ジェダが「大丈夫」と手を握ってくれる。
「コトなら絶対に出来るよ。今までだってどんな物語も書いてきたんだから。今回も上手くいくって」
「でも……」
「俺を信じて。お守り代わりにこれをあげるから」
そう言って、私の左手を取ると薬指に銀色の指輪を嵌めてくれる。
「これは……?」
「婚約指輪。本当は小説家としてのコトの初仕事が終わったら、告白して渡すつもりだったけど」
「こっ、婚約指輪!?」
素っ頓狂な声を上げた私に対して、ジェダは至極真面目な顔で頷く。