ジェダが戸惑うのも当然。そのジェダと初めて出会ったのもコミケ会場だった。
 異世界から現代日本のコミケ会場に迷い込んだ騎士の格好をしたジェダのことを、あの時はただのコスプレイヤーだと思った。
精巧なデザインの真鍮の鎧や風に靡く青いマントはどう見てもコスプレにしか見えなかったし、言葉を交わさなければジェダが異世界人で、元の世界に帰る方法が分からなくて困っていることも気付けなかった。
私にとってコミケ会場はただの娯楽場、でもジェダにとっては大切な思い出の場所なんだろうな。

「どうしてそう思ったのか、聞いてもいい?」
「そんなの簡単だよ。だって私には才能が無いんだから。公募に出せばいっつも落選、同人誌は売れない。良いところは何も無いじゃない」
「それで最近は何も書いていないの? あんなに一生懸命書いていたのに……」
「そうだよ。あ〜あ、悔しいな。ジェダにも手伝ってもらったのに、何にも結果を残せなかった」

公募の締め切り前は原稿に集中出来るように、いつもジェダは気を遣ってくれた。家のことを全部やってくれて、小雪の世話もしてくれて……。一人暮らしだったら、てんやわんやの忙しさだった。

「そんなことは……」
「そんなことより、早く食べよう? もうお腹空いちゃった」

 なんでもないように話して朝食を食べ始めても、やっぱりジェダは心配そうな顔をする。

「ジェダが作ると美味しいね。毎日だって食べたいくらい」
「ありがとう。でも俺はコトの料理が一番好きだよ」
「え〜っ。私なんて適当に作って盛り付けているだけだよ!」

 ジェダが作ってくれた朝食が美味しいのは本当のこと。それを言っただけなのに、困り顔で弱々しく笑わないで欲しい。どれも全て本当のことなんだから……。
どこか心が晴れないまま完食した後、ジェダはキッチンで後片付けをしながら何か考え込んでいる様子だったけれども、やがて覚悟を決めたのか、真剣な顔でやってくる。

「コト、お願いがあるんだ。今日の午後、俺に時間をちょうだい。どうしても会わせたい人がいるんだ」