「……ありがとう、来てくれて。嬉しかった……」
そう宇宙人達に告げ、私は空を見上げる。
「最後のお願い聞いてくれる? この世界を壊して欲しいの」
『この世界を壊したらお前は!』
「私は飛び降りたの。そうゆうことだから……」
私の作った世界を壊す。つまり私の人生は本当にこれで終わりだろう。
いいの、そのつもりだったんだから。せめて、天国とかに連れていってよ。
『その前に彼女の話を聞け』
宇宙人達が指差したのは伊藤さんだった。
「本物にごめんなさい。お願い戻ってきて! あなたのご両親は、あなたの回復を祈っている!いじめに気付かなかったと責めて苦しんでいる! あなたが死んだら悲しむよ!」
「やめて! この世界は私が作った。都合の良いことを私が言わせているだけ!」
『じゃあ、どうしてクラスの奴らは、「このクラスの悪」をカツアゲやら裏垢での悪口だって言ってるんだよ! お前の願望ならクラスの奴ら全てが反省してお前に謝っているだろう! 胸糞だが、あいつらお前が飛び降りても何も思わなかったんだ! それだけでなく、クラス全員に口止めまでした! だけどな、この子……、伊藤さんはお前を気にかけていた! あの日、彼女はお前の異変に気付き、下校途中に戻ってきてくれたんだぞ! しかし間に合わず、お前は飛び降りた……。気にかけてくれていたクラスメイトも居た。いじめの傍観に苦しんでた。それは事実だ!』
「やめてよ! もう終わった話でしょう!」
今更そんな事言われたって、全てが遅い!
私は死んだんだよ? ……違う、あいつらに殺された!
『……お前は生きている』
「……え。じゃあ、どうしてこの世界を作ることが出来たの? あの世に行く前の最期の夢の世界でしょう?」
『違う。お前は現在、意識不明の重体で生死の狭間を彷徨っている。この世界は、眠っているお前が作り出した世界。だから、この世界を壊すことはお前が死ぬことなんだ!』
「いいよ、それで……。だから飛び降りたの。全てを終わらせたかったから!」
私が死のうが生きようが、あいつらは何も感じないと分かったから、もういいよ。もう……。
「私が飛び降りれば、少しは後悔してくれる。良心の呵責ってやつに苦しめばと思ったけど、そんなやつらじゃなかった。これで助かったら、全て終わった話にされる! 最後の抵抗で死んでやる!」
同級生をいじめにより追い詰め自殺させた。
私の最後の復讐は、それしかなかった。
『お前をいじめていた奴らは社会的制裁を受けた』
「え? ……嘘!」
「本当だよ。いじめが公になって停学処分になったの!」
伊藤さんは真剣な表情で話してくれた。
『伊藤さんだけはあいつらに屈しず、本当のことを学校とお前の両親に話してくれたんだ! 同級生をいじめにより自殺に追い込んだ。その事実を学校中が知ることとなった。だからお前が死ぬ必要はない。戻って来い! 生きて、あいつらより幸せになる。それが一番の復讐だ!』
私は首を横に振る。
復讐の為に生きる。そんな勇気なかった。
『それじゃあ、お前を心配している両親と伊藤さんの為に生きる。それではだめか?』
「伊藤さん……」
私は、伊藤さんにだけは危害がいくのは嫌だった。
伊藤さんだけは、私のいじめられている姿から目を逸らさずにいてくれたと知っていたからだった。
「生きていけるかな……?」
そう、言葉に出していた。
すると宇宙人達は、手を優しく握ってくれた。
『当たり前だろう? お前は得体もしれない宇宙人から友達守るぐらい強い心があるのだから』
その手は金属のように冷たく、やはり人間ではないのだと分かる。
でも温かかった。言葉も心も、すごく温かかった……。
私はその手を強く握り返す。
ずっと、ずっと握っていた。
「……みんなありがとう。私、帰るね」
私は、初めて笑えた。
『リハビリ頑張れよ!』
『お前ならやり直せる!』
『あいつらを見返してやれ!』
髪がぐしゃぐしゃになるぐらい、頭を撫でてくれた。
『髪、また伸ばせよ……』
「うん」
私は短い髪を握り締めて頷く。
「伊藤さん。本当にありがとう……」
「必ず会いに行くから! その時に謝らせてね!」
そう言い、伊藤さんは私を優しく抱きしめてくれた。
私は、込み上げてくるものを必死に堪え、「うん」と返事した。
……すると私と伊藤さんの体が宙を浮いた。
慌てて宇宙人みんなの顔を見ると、ボヤけて見えた。
景色がボヤけたからじゃない。もう、我慢出来なかった……。
「みんな! ありがとう!」
そう言うと、眩い光に包まれた。
それは、すごく優しくて温かった。