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2年1組の文化祭合唱の準備は、他のクラスとは違っていた。
曲の続きをつくりながら、パートごとの楽譜を作成し、練習をする。すべてが同時進行で行われていた。
もちろん生徒だけでは完成は不可能のため、音代の協力も不可欠である。
「なんか、1番と2番歌詞の感じ違うよね」
曲作りに大幅に関わっているのは真里を含め真里の曲に協力したレコーディングメンバーの数人である。
池尻が難しい顔をして言ったそれに九条が頷いた。
元々動画で出していた曲は1番からサビまでのものであったと仮定して、続きを作っている。
「まあ、そうだよな。でも当然だといえば当然だろ、作った人が1番と2番で違うんだから」
その九条の言葉に真里が不服そうに眉を顰める。
「しようがないじゃん!経験者って言ってもちゃんも作詞したことあるの一回だけだもん。
1番は鬱憤とか不安とかをかいてる感じだったから2番から一気に陽に持っていこうと思って」
「にしてもギャップありすぎだよ。なんか統一感がないよね、なんでだろう」
「えー!またいちからかくの?昨日夜通し頑張ったのに」
真里が軽く地団駄を踏んでいれば、音代が後ろから口を出した。
「基本は変えなくていいと思うぞ、気持ちのもっていきかたは正解だ。統一感をだすために、主観か客観でみたほうがいい」
そこにいた全員が首を傾げる。
音代はピアノの譜面台に置いてある歌詞をなぞりながら説明を始めた。
「1番の作詞をしたやつは、主観で自分の気持ちをかいてるだろ、わたしはこう思っている、わたしはこうしたいってな。
だが相原のは目線が自分ではなく、相手になってる。あなたはこうしている、あなたはこう思っている、2番でいきなり『君』にたいして歌ってるから統一感がないんだ」
「確かに」とその場にいる全員が頷いた。
「基盤は変えずに、主観で統一した方がいい」
「1番を変えるっていうのは?」
真里がそう提案すれば九条が首を横に振った。
「あくまで俺たちは続きをつくる。1番の気持ちに寄り添うかたちでかくべきだ」
「まあ、そうだよね」
真里は悩むようにそう返事をして、顔を俯かせた。深見への応援歌しかつくったことがなく、自分の気持ちをぶつけるということも大事にはしたがあくまで深見の今までの頑張りや客観的な深見への魅力を歌詞にこめていたため、「わたし」という主観的なもので曲をつくることは真里にとって難しいことである。
「間宮さんは、どう思う?」
九条はその場にいる間宮へと話をふった。
間宮は瞳を泳がせ、おそるおそる歌詞の紙を手に取る。
何度か深呼吸をした間宮は、シャーペンを手に取り紙に書き始めた。
その手が少し震えているのを九条と音代は見逃さなかった。
間宮も前に進もうともがいている。
間宮がかいたのは、歌詞についてのアドバイスなどではなく、真里が書いたものの下にできた新しい歌詞であった。
それは真里の歌詞をまるまる変えたものではなく、音代の言ったとおり、統一感をだすための訂正であった。
「わ、すごい、一気にぽくなったね」
覗き込んだ池尻がそう言った。
「みせてみせて」と真里や九条も紙を覗き込む。
「やっぱすごいね間宮さん。しかもわたしの歌詞をうまくアレンジしてくれてる」
「2番で自然に前向きな歌詞になってていいんじゃね?」
間宮がぎこちなく笑った。
音代はなんとかうまくいきそうだと安堵しながら、教室の端にあるある人物へと目を向けた。
その男子生徒は何かスマホに打ち込み、ポケットにしまうと静かに教室をでていく。
「っ」
しばらくして輪の中心にいた間宮がスマホを開いて肩をびくりとあげた。
間宮は慌てたようにスマホをポケットにしまい、その場でみんなに頭を下げ、走って教室をでていく。
「あら、どうしたんだろう間宮さん」
不思議そうにそう言った真里に、池尻が軽く笑いながら「ほめられて照れてんでしょ」と言う。
「うんこじゃね?」
「九条くんサイテー」
「地獄落ちろ」
「そこまで言う?」
音代は和やかな雰囲気を壊さないようにその場を静かに離れて、ある人物へと電話をかけた。
教室をでて彼らが行った方面へと自らも足を進める。ワンコールほどででたその男。
「じじい」
「電話でて早々、ジジイ呼びはねえだろ」
「今すぐ学校に来い」
「あ?」
「何か起こるかもしれん」
音代は静かな口調でそう言った。