「あの……先生」

「なんだ」

「昨日……いつから、あそこにいたんですか?」

 書類を読んでいた木暮は、その言葉に顔をあげて口の端をあげた。

「私がどこにいようとかまわないだろう。それとも、なにか私に見られては困ることでもしていたのか?」

 笑顔らしきものを作っているのに、それはなんとも恐ろし気な笑顔だった。


(う……これは、やっぱり、見られてたな……)

 陽介は、姿勢を正して、頭をさげる。

「夕べは、妹さんに失礼な事をしてすみませんでした」

「失礼な事だと自覚はあるのか」

「まさか倒れる程ショックを受けるとは思わなかったんです」

 何か考えているらしい木暮は、それには何も答えなかった。