「失礼します」

 陽介が保健室に入ると、いつもどおりの白衣で机に座っていた木暮が振り向いた。反射的に一歩さがりそうになったが、ぐ、と堪えて声をかける。

「藍、いますか」

「何の用だ」

 冷たい話し方は、夜の藍にそっくりだと陽介は気づいた。


「夕べ倒れたから、心配しているだけです」

 木暮は無言で、白いカーテンに視線を移す。少し迷ってから、陽介はベッドに近づいた。木暮は陽介から目を離さなかったが止めることもなかったので、そのままカーテンの中を覗き込む。

 そこには、藍が穏やかに眠っていた。顔色の良いその姿に、ようやく陽介は安堵する。


「兄妹だったんですね」

 元通りにカーテンを直して、陽介は木暮に振り向くと近づいた。

「ああ。妹が世話になっているそうだね」

「一人であんな時間に出掛けるの、危ないですよ。あと、何か着せて下さい。あれじゃいつか風邪ひきます」

「あの子は風邪などひかない」

「現に倒れているじゃないですか」

「あれは」

 何かを言いかけて木暮は言葉を止めた。