「わっ! 藍!」

 あわてて陽介はカップを受け取り、こぼれたコーヒーを自分の服でぬぐう。

「火傷したか?!」

「う、ううん、もう、冷たくなって、た、から」

 ほ、として陽介は、藍の手を見つめる。小さな手は、藍の言う通りひんやりと冷たかった。


「よけい寒くなっちゃったな。ごめん、驚かせて」

 藍の顔に視線を移して、陽介はその顔が薄闇でもわかるくらい赤くなっていることに気づいた。

「藍?」

「なんで……」

 いつもの飄々とした夜の藍の顔じゃない。けれど、昼間の天真爛漫さとも違う。

 そこには、陽介が初めて見る藍がいた。


 陽介は、握ったままだった藍の手をゆっくり引いて、細い体を慎重に自分の腕の中に抱き込む。藍が怖がっていないか、注意深く様子を伺いながら。

 すっぽりと陽介の腕に収まった藍の体は、夜気にあたってひんやりとしていた。