「私も陽介君が好き」

 打てば響くような答えに、陽介は合点がいく。

(なるほど。これは男どもが誤解するわけだ)

 なんの照れもなく好き、と言ってしまえる藍は、陽介の気持ちを本当に理解しているとは思えない。

 だからと言って、せっかく気づいて告げた自分の気持ちをうやむやにされるのは嫌だった。


「そうじゃなくて……」

 陽介は、どうしたら藍に伝わるか考える。

「どういうこと?」

「俺の好きは特別の好き。さっき言ったように、家族や友達を好きとは違う、恋人の好き」

 藍は相変わらず無表情だったが、どうやら困惑しているようだった。


「うーん、説明するのは難しいな」

 考えても、これ以上には言葉を思いつかない。だから陽介は、実力行使に出た。

 目の前にいた藍に顔を近づけると、ごく自然に唇を重ねる。


 軽く触れた唇を離すと、藍が目を丸くして見ていた。

「これで、わかる?」

「……え……? きゃっ……!」

 藍の持っていたコーヒーが、くらりと傾く。中にまだ残っていたコーヒーが、藍の手を濡らして白いワンピースに流れ落ちた。