「……何人もの男と同時に付き合っていたって、本当なのか?」

 ただの噂だと思っていた皐月の話が、にわかに現実味を帯びてきた。

 藍は、ふーっと紙コップの珈琲に息を吹きかける。冷ましているのではなく、白い湯気が動くのが面白いのだと、藍が以前言っていた。


「遊びに行こうって誘われたから行っただけ。そうしたら、いつの間にかそういうことになっていた」

「遊びにって……つきあっていたんじゃなくて?」

「遊園地につきあって、とか映画につきあって、って言われたから、つきあっていたことにはかわりない」

「ええと」

 どうやら、藍の言う『つきあう』は、皐月の思っているような『つきあう』とは違うらしいと陽介はわかってきた。


「藍は、そいつらのこと好きだったのか?」

「好きか嫌いかと言われれば好き。怒る前は、みんな優しかったし一緒に遊んでくれて楽しかったし」

「そういうんじゃなくて……特別に好き、って思っていたのか?」

「特別に好きって、どういうこと?」

 深い闇のような黒い目が振り返って、陽介の鼓動が速くなる。


「他の人より、ずっと好き、ってこと。そういうやつは、いなかった?」

 しばらく考えていた藍が、ポツリと言った。