「またそんな恰好で。ちゃんと暖かい支度して来いって言ったじゃないか」

 その夜も薄いワンピース姿で現れた藍に、陽介は余分に持ってきたコートをかけてやる。

「寒くない」

「そんなわけないだろう。それで風邪なんかひいたら、来週の修学旅行、行けなくなっちゃうぞ」

「風邪なんてひかない」

 あいかわらず昼間と違う抑揚のない声にも、陽介は慣れてしまった。


 藍とここで星を見るようになって、毎度繰り返されるやり取りだ。藍は何度言っても薄いワンピース姿で現れる。そんな藍のために陽介は、余分なコートを1枚持ってくるのが常になってしまった。望遠鏡と合わせたら大荷物だ。


 放課後の出来事で心配していたが、いつも通りの藍の様子に、とりあえず陽介はほっとする。

 二人は並んで、あずまやのベンチに腰掛けた。

 陽介は紙コップに温かいコーヒーをついで藍に渡しながら言った。


「修学旅行といえば、二日目の夜、天文部で流星群の観測会をやるんだ」

 数日前に観測会の申請書を出して、天文部は許可をもらっていた。

「流星群?」

「そう。藍も一緒に行ってみないか?」

 藍は、しばらく黙ってから言った。

「考えとく」

 それきり、二人の間に沈黙がおちる。