「ち、違います! 俺は何もしてません!」

「女性を泣かすとは、お前、それ相応の覚悟はできているんだろうな」

 目の座った木暮に、陽介に手を引かれて立ち上がった藍が口を挟む。

「本当だよ。陽介君は、助けてくれただけ。これは、違うの」

「こんな奴かばわなくても」

「信じて下さいよ! 何もしてませんってば!」

 うさんくさげな視線を向けながら、木暮はそっと藍の腕をとる。


「具合悪そうだな。とりあえず保健室に行こうか」

「あ、うん。じゃあ、陽介君、ありがと。また明日」

「藍……」

「君も、用がないながら早く帰りたまえ」

 陽介が声を掛けようとするが、木暮はにべもない言葉をかけると藍の手を引いて校舎へと向かう。


 ちらちらとこっちを見ながら小さく藍が手を振った。釈然としない思いで、陽介もそれに手を振り返す。

(先生が一緒なら大丈夫だろうけど……なんだよ、あの二人)

 何か言いたげな藍の視線が、陽介の瞳の奥に残った。



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